講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.空き家のサブリース(篠山市)
鈴木:  地方に移住するとなると、「働き方」と「住まい」をどうするかという問題に直面しますよね。
嵩 :  地方に住みたい若者にとって、住宅をいきなり買うことには抵抗があります。実際、相談に来る6割近くが賃貸を希望しています。しかし、地方に行くと知らない人には貸したくないという意識が強くて、賃貸物件はなかなか見つかりません。むしろ売ってしまいたいという大家さんがほとんどです。
松村:  宅建業者が仲介に入らないとだめでしょうね。
嵩 :  宅建協会にもアンケートを行って、どうすれば賃貸物件を掘り起こせるか検討しています。仲介手数料は家賃と料率で決まります。料率は全国一律ですから、地方物件だと仲介手数料が安くなってしまう。そのため宅建業者は及び腰です。
松村:  従来の業務範囲だけで考えるとそうかもしれませんが、リノベーションには様々なサービスを付加できるので、むしろビジネスの可能性は大きいと考える向きもあります。実際、長野市の門前町の取り組みなどを見ているとそう感じます。このエリアでも空き家が目立ちますが建物オーナーには意欲が無い。でも不動産仲介と設計事務所と建設業を兼業する若者が現れて、現在では相当数の空き家の仲介とリノベーションを任されています。
嵩 :  信頼関係が無いから貸せないというのが本音だと思います。可能性があるとすれば地元の団体によるサブリースだと思います。実際、民間団体が入ることでサブリースがうまくいっている例はあります。兵庫県篠山市では、NOTEという社団法人が空き家を無償で借り受け、固定資産税も払っています。この仕組みで上手いと思うのは、貸し出した家賃できちんとメンテナンスもリフォームもしていることです。これは無償で借り受けているから成立していていると思います。大家とは10年間の定期借家を結んでいます。10年後には再契約してもよいし、契約せずにリノベーションされた建物を自分で利用しても構いません。


西田:  放っておいたら発生する固定資産税の分は支払いますという仕組みですね。所有者は途中で変わってもいいんですか。
嵩 :  途中で変わることもあると思います。大家さんが亡くなって相続されることもあるでしょうから。地方の方は借地借家法が変わったことを知らなくて、貸したら二度と戻ってこないと思っている。定期借地や定期借家という契約があることをもっと伝える必要があります。
鈴木:  篠山市の仕組みは他の自治体にも参考になりそうですね。
嵩 :  講演でこの取り組みを紹介すると、興味を持つ自治体は非常に多いです。視察に行きたいとか講師を紹介してほしいとか言われます。ただ農地に関しては農地法のしばりがあるんです。農地は基本的に農業者しか借りることができませんが、地方の物件では、住宅と農地がセットになっている事が多く、土地と農地を一体で処分したい場合も多いので、そこもネックとなります。



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