講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.草木染めを始めたきっかけ
西田:  今更ながらの質問ですが、独立後は一体何の仕事をされているのでしょうか?
星名:  大学卒業後に勤めた会社では文化財などの修理の仕事をしていました。そうした業務を経て、ここへの移住を経験して痛感したことは、とても住めないと思える建物でも、ゴミを捨てて庭も手入れして、三日間くらい付きっきりで磨けば見違えるようになる。ですから、独立していきなり大きな仕事が来るわけもないので、最初は古い建物を掃除する仕事を採りたいと考えていたんです。

きれいに掃除すると、カスタマイズと言いましょうか、設えが欲しくなります。例えば建具が割れていたとします。修理をしなくても布をぱぁって掛けるだけで見えなくなる。畳が傷んでいたらそこだけ何か敷けばいい。建物を直さなくても住む場所を整える方法があって、そうした設えには布がとても便利に使えます。そして染めは、お客様の好みを出せるのでとても相性がいいと思いました。
西田:  つまり古い建物を設えるために染色を始めたわけですか。以前に聞いたときは、庭に生えている木を染料に使うと言っていましたね。
星名:  草木染めの例 どうせやるなら草木染めにしようと思ったんです。例えば工房の方には樹齢100年以上のサルスベリが生えています。サルスベリは黒を染められるので、枝を剪定したら暖簾を染めたりする。紅葉の葉っぱならねずみ色、藤の葉っぱならレモン色を染められます。藤の花が咲く時期には藤で染めた座布団カバーを使うとか、サルスベリの時期には黒く染まった暖簾を出そうとか、季節の移り変わりに応じて自分なりのストーリーで設えを楽しめるんじゃないかと思ったんです。
鈴木:  草木染めはいつ頃覚えたのですか。
星名:  草木染めの例(陶器:越前浜の陶芸家の吉岡謙治さん作) 独立を具体的に計画したときからです。前の会社に長岡造形大で染物を専攻した人がいて、その人から見よう見まねですが染めの基本的なことは習いました。草木染めに関してはその人も専門ではなかったので、初めの頃はもっぱら染め方の試しに明け暮れていました。私は染料に使える植物の採取や煮出し方を調べたり、試したりするので精一杯でした。色々なテキストを読みあさりながら、ほぼ我流で覚えました。
西田:  奈良でどんぐりを子供に拾わせて染めたりするワークショップをしていましたよね。
星名:  奈良で文化財のお仕事を頂いて、東大寺様に行っていた頃ですね。たまたまその現場事務所の隣が奈良のNPOセンターで、そこの事務局長さんと話をしているうちに意気投合したんです。それで東大寺境内の植物観察と草木染めをセットにして、植物の中に潜んでいる色調べをしようという遊びをやってみました。と言うのも、植物の見た目の色と中から出てくる色は全然違うものが多いんです。例えばサルスベリは、葉っぱは緑で花は赤ですけど、黒を染めることができる。
鈴木:  話を聞いていると何か時代が変わってきた感じがするね。自然の中で何かやるっていうのは以前からあったけど、違うよね。
松村:  なんていうか非常に自然な感じだよね。昔はもっとイデオロギー的というか頑張っている感じがあったけど。



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