講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.越前浜に移り住む
星名:  おじいちゃんと息子さんがいらっしゃるときにもう一度訪ねまして、その民家を気に入った理由やここで何をしたいのかざっくばらんに話したところ、貸しても構わないと言ってくれました。その時点ではきちんと暮らせるかお互いに分かりませんから、契約は1年間にしまして、やはり貸したくないと思ったら出て行くし、私の方も実際に住んで無理と思ったら出て行くという条件にしました。1年後におばあちゃんに聞いたら「いつまでも住んでいていいよ」と言われまして、そうした経緯で越前浜には2004年9月から住んできます。
松村:  お値段はその場で決まったのですか。貸す方も初めてでしょうし賃料相場があるとも思えませんが…。
星名:  契約のときに伝えられました。金額を言いづらそうにみえましたが、こちらにしてみればありがたい値段でした。

星野さんの工房(外観) 現在は2軒借りていまして、最初に住んだ方は明治初期の建物が200坪の土地付きで15000円です。現在は妻と共同の工房として使っています。皆さんに来て頂いたこちらの家は昭和初期に建てられたもので10000円です。もともとは妻が住居兼工房として契約したものです。最初はただでいいという話も出ましたが、最終的にその金額でまとまりました。どちらも都市部の賃貸物件からみたら驚くような安さに思えますが、そのぶん入居するときの片付けと掃除、いらないものの処分、それと建物を直したりボイラーなどの設備を新たに入れ直したりと、基本的には建物に掛かる費用は全てこちらが持つことになっています。結婚してからは私が住んでいた方を仕事場にして、こちらを住まいにしました。移ったのは一昨年秋頃です。
西田:  奥さんはガラス作家ですよね。この越前浜で知り合ったと聞いたけど?
星名:  学芸員をやっている私の友人に、ある作家さんが作品展をさせてもらえる古民家を探しているから相談にのって欲しいと頼まれました。その作家さんというのがいまの私の妻です。といっても、彼女自身の作品展のためでなくて、彼女も知り合いに相談されて探していたんですね。それで彼女と私が会うことになって越前浜の話をしましたら、彼女自身もそこに工房を構えたいという話になって。結局、頼まれていた方は間に合わず別のところで開催され、彼女の住まい兼工房となる民家探しだけ手伝うことになったんです。
西田:  で、その時から好意を抱いたと。
星名:  (苦笑)誰も信じてくれませんが、最初はそんなことなかったんですよ…。

それで大家のおばあちゃんに相談したところ「お前までは面倒みられるけど、お前の友達まで責任持てない」と言われてしまって。ここでは紹介することは責任を持つことですから。結局、自治会長さんに相談することになって、おばあちゃんと二人でお願いに行きました。この辺りでは自治会長さんを「区長さん」と呼んでいますが、その区長さんが「つい最近も陶芸家の若い人に家を紹介したばかりだ。電話での問い合わせもたびたびある。村から人が出て行くなか、外から住みたいという人がやって来るのは嬉しいことだから応援したい」と言って家探しを手伝ってくださった。
松村:  それじゃあ、古い家に住んでいたことが奥さんと出会うきっかけになったわけですね。長持ちしている住宅が縁を取り持ってくれた。
星名:  そのあと、最初に妻を紹介してくれた学芸員の友人も、区長さんに紹介していただいて移住が決まりました。本当は彼の方が先に探していたんですけどね。



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