成熟研委員:環境の変化が健康に関わることについて、どの程度の期間で効果が現れるものなのでしょうか。我々はエンドユーザー様と関わっていて、できるだけたくさんの方々に働きかけて、健康寿命を延ばしていただきたいと考えています。そうするとユーザー様からは、これをやるとどれくらい効果があるのと訊かれると思います。そこをどのようにコミュニケートするのがよいのかなというところに興味があります。
河口氏:期間については、どの観点でアプローチするかで変わります。神戸市において、健康水準が比較的低い地域に対してアプローチした研究があります。ある地域ではコミュニティがなくて高齢者同士のつながりが全く無い状況でした。その地域では公民館が集える場所を見つけて社会活動を提供すると、そこで次第に人のつながりができて、人のつながりが新たな活動を呼んで、活動が広がっていきました。その結果として、8年くらいで健康水準の格差が縮小しました。オウカスの例では、1年間の追跡期間しかなかったのですが、要介護リスク点数は0.8点くらいさがっています。点数1点あたりで、3年間のうちに要介護認定を受ける確率はおよそ2%変化します。
成熟研委員:社会参加の中にはスポーツなどがあり、社会参加されている高齢者は運動もされていると考えられます。本日伺った研究では、社会参加の健康への効果が評価されていますが、運動による効果も含まれているのではないでしょうか。弊社の運営している高齢者向け住宅では、地域とのつながりや社会参加づくりがなかなか難しくてやれていない面があります。
河口氏:社会参加と運動の効果をきれいに分けることは難しいかと思います。ただ本日お話したように、人とのつながりが運動以上に健康寿命に効果があるとのエビデンスがあります。高齢者向け住宅の中には共用部で気軽に人のつながりづくりのできる環境が整えられているところがあります。そして地域とのつながりによる、健康寿命への効果検証は、プログラム前後での変化や導入していない施設との比較などで可能であり、その検証が求められると思います。
成熟研委員:働くことが介護予防に最も有効とのことですが、就労とボランティアの違いは、収入になるかどうかの点でしょうか。
河口氏:すぐの回答は難しいと思いますが、その要素はあり得ると思います。また、就労の方が役割を持ちやすいといった仮説が考えられます。コミュニティの結びつきが強くなりすぎると、所属できない人には不利益が生じるということがあり、集団の形態のあり方も健康に影響していると思います。
成熟研委員:前に災害公営住宅に関わったことがあります。阪神淡路大震災の経験からコミュニティが重要だということで、東日本大震災では行政と協力しながらコミュニティづくりに取り組んでいました。本日は高齢者向けの集合住宅でのお話を伺いましたが、戸建て住宅団地でも参考にできるような点がないでしょうか。
河口氏:Naturally Occurring Retirement Community Supportive Services Programs (NORC-SSPs) は、都市部の高齢化が進んで孤立しがちな地域に、コーディネーターが入って様々なニーズを引き出し、サービスを提供する仕組みです。ニューヨークのユダヤコミュニティが高齢化して孤立したことへのサポートが始まりと記憶しています。ボランティアに近い組織運営体制で、営利企業の導入は難しいかもしれませんが、戸建て住宅団地でコミュニティを維持するための組織として参考になると考えられます。マンションだと管理組合があり、その管理組合をサポートする企業がありますが、戸建ての自治会・コミュニティを支える企業があると、地域運営がやりやすくなるのかなと考えています。ここからお金をどう生み出すかが難しい問題だとは思いますが、それに近い事例がこれから生まれると思います。
以上