自然と健康になる住宅づくりを目指して
千葉大学予防医学センター特任教授 河口謙二郎
千葉大学予防医学センターでは、高齢者の健康寿命に社会環境や物理的環境が大きく影響するという観点から、高齢者向け住宅での調査を行い、居住者の社会参加を促すことが要介護リスク低減につながるとのエビデンスを蓄積されています。河口氏は、高齢者向け住宅での調査データによる、日本版Age-Friendly Housingの基準策定と検証を行い、自然と健康になる高齢者向け住宅の展開を考えられております。
(1) ゼロ次予防
我々は積水ハウスグループ様のシニア向け住宅「グランドマストシリーズ」にお住いの高齢者830名と、地域高齢者5,810名の、Well-beingの比較を行い、シニア向け住宅にお住いの方の方が、幸福感や生活満足度が高いとの分析結果を得ました。
本日のテーマは、次の3つです。
〇ゼロ次予防一自然と健康になる環境づくり
〇高齢者の健康増進の鍵一社会参加
〇Age-Friendly Housing
私が所属している千葉大学予防医学センターの社会予防医学研究部門は、「自然と健康になれる社会を目指して」をミッションとしています。人間というものは分かっていても健康行動はなかなかとれません。例えば減量を行った人でも、5年後も平均体重を維持した率は23%との調査結果があります。健康の要因として、生活習慣や健康行動にフォーカスされる傾向がありますが、実は個人の社会的背景・要因(学歴・所得・家庭環境・婚姻状況・社会関係など)が健康に大きな影響を及ぼすことが分かっています。さらにそれを取り巻く社会構造(地球環境・国際関係・国政策・法律・職場・コミュニティなど)が大きく関係してまいります。例えば肥満と社会的背景の関係については、ジャンクフードをよく食べるような環境の方は太りやすい、あるいは幸せ太りといった事例があります。社会構造については、酷暑により運動が難しくなるという関係があります。あるいはアメリカに留学して太る人が多いといったことがあります。社会環境・物理的環境が健康への影響要因の50%を占めるという定量的な研究があります。行動変容、ヘルスケアへのアプローチだけでは、この50%の要因を見逃すことになります。
WHOはこうした研究を踏まえて2006年にゼロ次予防という概念を打ち出しました。これは疾患の原因となる社会経済的、環境的、行動的条件の発生を防ぐための対策を取り、疾患の「原因の原因」にアプローチするというものです。
従来の予防の考え方は、次のものでした。
1次予防リスク低減 (例:喫煙・飲酒)
2次予防早期発見・早期治療 (例:高血圧・糖尿病)
3次予防再発防止・リハビリテーション (例:脳梗塞)
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