講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


8. 継承活動の今後の課題
松村:  大きな建物になると企業の文化活動になったりします。例えば、京都の南禅寺の別荘を買うような場合、庭師は誰で、大工の棟梁は誰で、誰それが住んでいたという物語までがセットになっている。住宅遺産トラストはそうした活動と中古住宅流通の間に位置するように感じますが、継承した住宅遺産に本格的に住んでいる割合はどれくらいになりますか?
野沢:  加地邸のように宿泊できる施設として活用している場合もありますが、基本的には20〜50坪ほどですから独立住宅としての使い方になりますね。
木下:  美術コレクションとして継承された「土浦亀城自邸」や「から傘の家」を除けば、ほとんどはお住まいになっています。振り返ってみると、カーサブルータスが創刊された頃から、建築に興味を持つ人の裾野が広がった印象があります。日本でも、ウェグナーやイームズの家具が少なからず知られるようになりましたよね。建築もそれに近づいてきた感じです。もちろん高価なので、買って下さる方はアートや建築がお好きな実業家が多くなりますが。
野沢:  「聴竹居」を竹中工務店が買いましたね。竹中はもちろん大きな会社ですが、非上場ですから社長の一存で買うことも可能なのでしょう。自分で会社を起こし一定の成功を収めたIT起業家のような方々も同様です。
松村:  個々の取引を通して継承していくためには、住宅遺産の価値を市場で認める人が増える必要があります。そういう意味では、企業が継承したから安心というわけでもない。社長が変わったら方針が変わってしまうかもしれませんから。
野沢:  二宮の吉田五十八自邸は、そうした事例の一つかもしれません。移築されるとのうわさを聞きました。奥様が長らく住んだ後、ある実業家に譲られましたが、その後さらに別の企業に渡りました。かつてすばらしい庭がありましたが、うわさ通り移築されるとすれば、どのようにあの庭は保全されるのでしょうか。住宅遺産をきちんと継承していく難しさは、個人でも企業でも変わりません。
木下:  住宅遺産の継承は時間に左右されます。継承活動に時間がかけられない住宅遺産を解体の危機から救う受け皿のような仕組みが必要なのではないかと感じています。今後は、そうした住宅遺産をいったん買い取り、時間をかけて継承につなげることも視野に入れて活動していきたいと考えています。



前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP