島原さん、木下さんと大井町に行きたかった
ライフスタイルを考える上で、どんな住まいでという以前に、どんなまちでという問いが先に来るのはごくごく当たり前のことだ。ところが、どんなまちの暮らしはどんなものかというテーマについて、まともに比較分析して語った人はそれほど多くないように思う。
2015年のある日、ズバリこのテーマのもとに書かれた報告書が送られてきた。今回のメインゲスト島原万丈さんからだった。
表紙にやられてしまった。セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが1971年に来日し、どこかの路地をとても楽し気に歩いていた時の写真だ。ここからはわかりにくいが、この時バーキンはおなかに二人の愛の結晶、後のシャルロット・ゲンズブールを宿していた。「官能都市」というタイトルにこれ以上相応しい写真があるだろうか。島原さんがどういう気持ちでまちと人の暮らしを見ているかがこの1枚だけでわかってしまう。
島原さんはまちの魅力をある程度客観的に把握するために、形容詞ではなく動詞を用いたという。そう言えば、よく似たことを随分以前からこのページの企画のパートナー、鈴木毅さんが力説していた。人々の住環境の質は、人と環境の相互作用の中にこそあるのだから、それを語るのに形容詞を用いていたのでは駄目だ、動詞を使わないと。私の理解では、概ねそういう主張だった。これは島原さんのまちに対する考えと全く同じだろう。だから今回は、まちを動詞で捉えるこのお二人、そしてまちに対する存在の仕方自体が「動詞」としか言いようのない木下斉さんと一緒に、島原さんお薦めの官能都市に行きたいと思い、場所を決めて頂いた。「大井町」、それが島原さんの答えだった。私も時々用事のあるまちだが、その官能都市振りを十分に味わったことはない。これは楽しみと思っていたのだが、今回私自身の事情でどうしてもお供できないことになってしまった。本当に残念だ。当日は、島原さんが著書で描写されていた武蔵小山界隈のような動詞的世界が展開したのだろう。羨ましいライフスタイルだ。
(松村秀一)
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