講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』
インタビュー「人だけが居なかった民家に暮らす」

星名康弘
1997年(株)グリーンシグマ入社。2004年8月に独立し、屋号「橙鼠(だいだいねずみ)」で、草木染め、文化財(建造物)調査、歴史的建造物の保存活用、木質バイオマスなどの仕事を始める。現在は屋号を「浜五(はまご)」に改称し、松岡建築設計事務所に勤務しながら同様の活動を継続中。



1.口コミでの物件探し
2.越前浜に移り住む
3.住む人がいなくても空き家じゃない
4.越前浜への移住者
5.越前浜の行事と住民との交流
6.社交の場としての星名家
7.草木染めを始めたきっかけ
8.工房にて
9.まとめ



1.口コミでの物件探し
西田:  星名さんは新潟大学建設学科の出身で、ライフスタイルと住まいの第4回に登場した黒野先生のもとで卒業論文を書いています。出身地の旧川西町近くの伝統的住宅の雪処理を取り上げたんですよね。

星名:  横井戸から引いた水を家の回りのため池に次々と流している集落を取り上げました。生活や農業のための水を融雪にも使っていたことが分かって、そうした水利用がもたらした集落全体の空間構成を分析しました。
西田:  卒業後は新潟の設計事務所に就職しましたよね。どうしてこの越前浜の古民家に住むようになったんですか?
星名:  文化財修理などをやっている建築設計事務所に勤めてから、2004年8月にフリーになりました。それで住居兼事務所兼工房みたいなものを構えられる場所を探したんです。草木染めに取り組むつもりだったので水仕事もできて工具なども使える場所が欲しかった。

最初は町工場の空き物件を探していました。でも意外と物件がない。弱ったなと思って、知り合いのタクシー運転手さんに相談してみたんです。そうしたら「探してみるけど、何か目星はついているの」と言われたので、越前浜に古い家が沢山あったことを思い出して、その近辺で探してもらうことにしたんです。
鈴木:  越前浜に古い民家が多いことはご存知だったのですね。
星名:  たまたま越前浜に迷い込んだことがあったんです。新潟市の中心市街に近いのに茅葺きの家が20〜30棟残っていた。それを思い出して、茅葺きの民家なら土間があって屋敷も広くて納屋もある。家の中も壁が少なくて作業がしやすいだろうと考えた。そうしたら運転手さん経由で越前浜に販路を持っている布団屋さんにつながって、空き家が見つかった。それで二人の紹介者と共に家を管理しているおばあちゃんを訪ねることになったんです。

実はその時点では、貸し物件ではなかったけど気に入った町工場がみつかっていたので、やっぱり民家では扱いにくいかなぁって期待していなかったんです。でも訪ねてみると一目でロケーションが気に入ってしまった。即決しておばあちゃんに「貸してくれませんか」と聞いたところ、その場で断られてしまいました。と言うのも、布団屋さんが借りると思っていたんですね、おばあちゃんは。ところがその知り合いの知り合いである私が出てきたので不審に思ったらしいんです。まあ坊主頭のこの風貌も大きな原因かもしれません(笑い)。



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