講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


8.工房にて
鈴木:  こちらの民家が工房ですね。星名さんが越前浜に暮らすきっかけとなったわけですが、具体的にどこが気に入ったのでしょうか。
星名:  言葉では表しにくいのですが、素直にここで過ごしたいと思った。ごらんのように高台のロケーションなっていて、後ろに一軒茅葺きがあるだけで周りに家がありません。家の前のこの大きなサルスベリが真っ赤に咲いていました。向こうには桜や梅があって、すり鉢の土手のようになっていて、庭が里山みたいな雰囲気です。
西田:  少し美化しているんじゃない?以前聞いた話は、水道もガスも何もないサバイバル生活だった気がしますが…坊主頭もそれが原因じゃなかった?
星名:  星名さんの工房(水場) 確かにサバイバルに見えますが、昔ながらの暮らし方をしなければならなかっただけとも言えます。上水は、井戸水のポンプアップのみで、水道は引き込まれていませんでした。電気は20アンペアで線も細く、古くなっていたので電線からすべて引き込み直しました。ガスはプロパンです。そのなかでも特に気を使ったのは排水です。昔の仕組みのままで、屋敷内に素堀りの穴があって全部地下浸透でした。ですから井戸水の汚染が怖い。流す物はかなり限定し、洗剤関係も歯磨き粉まで全てを純石鹸に切り替えて生活していました。頭はもともと丸坊主でしたよ。ただ伸ばすと整髪剤が必要になるので、ひょっとして浸透すると良くないかなと思って、丸坊主のままにしていたことは確かです。
西田:  冬は死ぬほど寒いんじゃないですか?家の中が全部凍ったという話をしていましたよね。
星名:  冬の間も薪ストーブを焚いていれば問題ありませんが、出張から帰ってきたら家の水もの全てが凍っていました。そのときは2日間くらいご飯も風呂もよそで済ませました(一同爆笑)。
鈴木:  あそこに見えるのが薪ストーブですか。
星名:  夏は外に置いて植物を煮出すのに使います。冬は茶の間で暖房を兼ねて煮出します。壁から出ている煙突につなぐんですが、実は調整が難しい。煙が逆流したり水蒸気が水滴となって垂れてきたりします。3年目くらいでやっと位置と長さが落ち着きました。
松村:  雨は漏らないのですか
星名:  まだ大丈夫ですが屋根は結構問題ですね。ずーっとお借り出来そうな様子もあったので、お金をかけて直そうと思ったこともあったんです。でも、何年か後に帰ってくるかもしれないからと言われまして…。
西田:  住まいに使っている方は僕でも住めそうな気がしたけど、こちらの方は中に入るとサバイバル感が出てくるね。
星名:  やっぱり今住んでないからでしょうね。一週間も住めばガラッと変わりますよ。ちなみにこの辺りの民家の間取りは一緒でして、こちらが小茶の間と茶の間で、向こうが座敷です。この家はこの地域でも大きな造りでして茶の間が18畳あります。

この工房はイベントやギャラリーの場所としても友人に貸すこともあります。イベントをするときは茶の間と座敷の板戸を全部外して30畳ほどの大広間として使うこともあります。以前2月に「冬篭りの民家から」というイベントをした時には、茶の間に1.2m×2mの巨大コタツを作ってお客様を迎えして、しつらいは自分のイメージする昭和50年代の茶の間を再現しました。寒くて絶対に人は来ないと言われましたがけっこう集まりました。今では、自分のところだけでなく、ここに工房を構えているたくさんの人たち、地域の人たち、ここで何かやりたいっていう人たちと一緒に、「浜メグリ」というイベントもしています。



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