講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


12.最後に


自分で別荘までつくってしまうのだから、「知的DIYの技術」(新潮選書)の著者中野不二男さんは只者ではないなと思っていましたが、やはりそうでした。お話しを伺った後、一杯やりながら更に色々とお話しましたが、小中学生の時代から様々な実験や工作に没頭する天才理科少年だったようです。その後の人生の組立ても非常に独自性の強いもの。自分流に拘る強さのある人なのだと得心しました。

そう、「これこそライフスタイル」という感じです。市場調査屋さんに勝手に分析され、「○○派」というような適当な名前をつけられるものではなく、その人の人生そのものの表出のようなライフスタイル。いよいよこの頁も良いところまで来たように思います。

DIYに関して言えば、やはり何かを「つくる」という行為そのものであるだけに、ライフスタイルを生出す人間の本質に極めて近いところにある時間の使い方だと実感しました。これは「DIY派」などと軽はずみに一絡げにしていてはとてもまずいのだと思います。DIYの世界は予想以上に深いのです。
(松村秀一)



どちらかといえば建築や都市環境の社会的な側面の重要性を論じることが本業になりつつあるのだが,中野さんの著書を読み,お話を伺って久々に忘れていた理科系の血が騒いだ気がする。電動工具の話、子どもに参加させること、住まいの建設・改築等に関わる業種の問題、大工さんとの意志疎通が難しいこと、日本の技術の「土地勘」がなくなりつつあることなど、考えさせられるお話ばかりであった。また、ウィーンの半地下のワインセラー兼工房や、ニュージーランドのワークショップの具体的なお話はこれまであまり聞いたことがなく非常に興味深かった。思想・理論・技術から、料理・あらゆる商品まで、なんでも輸入されているように感じる中で、意外にこうした外国の普通の生活の中で日本人に見えていないものがまだあるのかもしれない。全くの直感だが、それらは、ライフスタイルといった時にすぐに話題にのぼる(中野さんの言われる)「男の料理」型ではない、もう少し日常的かつ上位、いわば本来のライフスタイルに関わっているものが多いのではないか。
(鈴木毅)



私の場合、食事は外食、洋服は既製品、家は賃貸、仕事はサラリーマン。生活を構成するほとんどの要素がレディメイド、つまり出来合いのモノやコトであ る。他人との差異は、どの様なモノやコトを選択し組み立てているかにある。私はそんなありふれたモノに囲まれた生活に満足もしていないが、日々小さな幸せは感じている。

一般にクリエイティブなライフスタイルを送っている人は、そういう出来合いのモノやコトに満足しないタイプであろう。中野さんも明らかにその一人で、料理は玄人はだし、家はセルフビルド、仕事は自分でつくられている。いわゆるDIYには「何でもプロにまかせるのではなく、自分でやってみましょう」みたいな日曜大工的ニュアンスがあるが、中野さんの場合はこれとは次元が違う。プロにまかせても簡単にできない、そもそも世の中に存在していない、そういうモノやコトづくりに自らの手や身体を動かして創り出されている印象がある。それを可能にしているのは、中野さんが持つ旺盛な探求心と科学技術力であって、誰にでも真似できるものではない。しかし、DIYという行為の延長上にあることは確かであって、創造的ライフスタイルを諦めてしまうのはまだ早い。
(西田徹)




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