講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.オーストラリアのスケールの大きなDIY


その後、帰国し、オーストラリアのエンジニアリング会社に勤務しました。ここでもまた、みんなDIYをやっていました。ところがやり方の違いがありまして、オーストリア・ドイツなどでは地下室が多かったのが、オーストラリアに行くとワークショップが大きく、車が3台入るような大きなスペースでやっていました。



勤めていた会社の部長はヨットが趣味で、週末には地域の子供に指導を行い、それがない時は一人乗りのディンギーというヨットを自作していました。見に行くとワークショップの中でこつこつとそれを組み立てていました。規模がヨーロッパより大きいことが印象的でした。会社にはプール作っている人もいました。大体は会社の有給休暇をそういうことにつぎ込んでいるようでした。別に技術部だからそういうことをやるってわけではなく、誰でもやるという雰囲気でした。



当時、僕は二足のわらじを履いておりまして、連邦政府からアボリジニ研究費も受けていました。そのため、キャンベラの国立研究所によく行っていたのですが、その時に研究所の所長と副所長と3人でサイクロトランスミッションというトルクコンバーターを製作しました。所長が理屈を出し、僕が設計し、副所長が自分のワークショップでアルミを削ってプロトタイプを作ったんです。そういうことを平気で自宅でやりますし、人類学研究所の所長と副所長と国から研究費もらっている僕が集まっても誰も不思議に思わない。理系だ文系だという感覚が完全にないようです。副所長の家のワークショップは車4台くらい入る大きさの何でも出来るワークショップでした。彼は近所の子供のローラースケートが壊れた時に修理などを引き受けたりしていて、僕は彼のやり方に非常に影響を受けました。もちろんワークショップも鉄骨を自分で組んで作ったそうです。



セカンドハウスの自作も当たり前のようにやっているわけです。うらやましいなと思ったのは、基礎だけやってくれる職人、柱だけやってくれる職人、梁だけやってくれる職人、というように部分的な作業を請け負う職人が簡単に見つかることです。もちろん、全部お任せの職人もいます。自分で好きなようにイエローページを見て頼めるわけです。これがよく出来ているなと思いました。



僕が勤務していた会社の隣に大きなスーパーがありまして、1階にはDIY用品の電動工具が並んでいるわけです。なぜかというと、店内でランチのフィッシュ&チップスなどを食べながら、ナットなどを見て週末に使うパーツを集めたりするわけです。日本で言うと丸の内や八重洲で昼飯の時にサラリーマンが本屋で立ち読みをしている光景と非常に似ているように感じました。



研究の仕事の報告書を書く際に手伝ってもらう学生さんがいたのですが、一昨年シドニーに行った際に家を訪ねてみると案の定小さなワークショップを持っていました。2畳くらいのスペースに自分のパソコンの道具などを全部置いて、ホコリがかからないようにシールドをひいて木工などをやっていました。そうしたワークッショップは必ず持つものなのですね。



ところが日本では特別なことになっている。ましてや僕みたいに家を自分で作ったりすると月刊雑誌型と見られてしまう。ですから僕は、仕事関係で出版社やテレビ関係の人からインタビューを受ける際に、埼玉の自宅でいいじゃないかと言うのですが、「いや、榛名でやらしてくれ」と言って、わざわざ榛名まで来たがるわけです。そこまでしなくてもと思うのですが、やはり日本だと特別なことになっているのだなと痛感します。
(写真:DIYで建てた榛名の別荘)



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