講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


10.質疑応答2:DIYと家庭
松村:  設計は見よう見真似なんでしょうか?
中野:  もともとは、企業の技術部の出身なんですよ。専門は機械設計でしたから、いちおう設計はできますが、建築はさっぱりわからなかった。だからいろんな入門書を読んで、少しずつ覚えてゆき、自分なりに工夫をしました。それで、最終的にどうなるかを決めて、1期と2期に分けた場合、1期の作業をやっている間、2期の資材をどこに置くかなどを考えなければならないわけですよね。それはやはり土地勘なんですよね。
松村:  段取りを決めることが重要というわけですね。職人もそうですよね。段取り7分とか8分いいますよね。ところで、お書きになったDIYの本は、誰に向けてどういうような心持でまとめようとしたのでしょうか?
中野:  実はちょっと中途半端だったんです。新潮では最初に「メモの技術」という本を書いたんですね。その本がえらく売れて、新潮から続編を書くように薦められて、「デスクトップの技術」という本を書いたわけです。それでそのシリーズの続編として書きました。

ターゲットについては本当はぼけていると思います。僕としては小さな子供がいるお父さんに向けて書きたいなと思っていました。それを今やっておかないと、日本は本当に物作りの土地勘を失って大変なことになるという思いが強いからです。もっとも、小さな子供がいるお父さんに家まで作るお金なんてあるわけがないという点でちょっとぼけちゃうなと考えて、担当編集者と議論をしましたが、夢として捉えれば良いのではないかということで取り上げました。
松村:  僕はDIYをやりませんが、これを読むと工具くらい買ってみたいなとは思いますね。
中野:  電動工具を買った瞬間に変わってしまいましたね。今まで10年かかっていたことが1年で終わるという感じでしたから。
松村:  子供の教育とは別にご自身の趣味として考えた場合、最高の部類に入るものなのでしょうか?
中野:  僕らの仕事はいつも机に向かってやっています。そうした内向きな仕事の気分転換として一番いいのがDIYと料理と剣道だと思っているんですよね。仕事を100%忘れて集中することが出来るんです。
松村:  前々回にインタビューしたDIYerの方は他人の家の仕事は絶対しないと言っていました。いくら腕が上がってきてもやはり自分のうちの仕事だから出来るってことなのでしょうか?
中野:  僕も絶対しないですね。やはり、自分の使いやすさと自分の楽しさのためのものだからでしょうね。
松村:  最近DIYの研究をしている大学院生がいるのですが、彼が言うにはDIYという言葉が良くないと。もともとイギリスでDo it yourselfと言うと人に指図する言葉になるので、Do it myselfとかDo it ourselvesなのではないかと言っていましたね。
中野:  僕もメールを頂いた時に少し抵抗がありましたね。いわゆるDIYとは少し違うんだがなぁという気持ちはありました。ドイトなどを見ると一目瞭然で、パーツ売り場や電動工具売り場などの重要なところには男性が行ってないんですよね。結局日本はこういう文化なのかという気はしました。DIYという言葉も日本に帰ってきて初めて知った言葉ですね。
松村:  海外ではどのような言葉がDIYに相当するのでしょうか?
中野:  言葉はないですねえ。
西田:  海外では男性がワークショップを持っていることが多いのでしょうか?
中野:  圧倒的に男が多いですね。それが男の甲斐性の一つであるといった感じです。
松村:  NHKの番組では女性向けといった感じで展開していますよね。
中野:  男性の領域は日本ではやりにくいんじゃないでしょうかね。だから結局繊細なリフォームのほうがテレビには向いているのだと思います。
松村:  中野さんとしては、DIYを標準教育として日本人の誰でもやってみれば良いとお考えなのか、それとも、好きならやれば良いとお考えなのか、どちらなのでしょう?
中野:  DIYって本当に簡単な事柄から家を作るところまで、リニアにつながっているように思っています。図面書くだけで…。だからどんな段階でも楽しめるし、広がりがあります。その意味では、自分ができるレベルではじめられる。私としては、基本的な技能として、みんながやるべきだと思います。料理みたいなもんですよ。
松村:  家庭内で自分で作る物で満足出来るかどうかの合意形成が難しいのではないでしょうか?
中野:  それはうちも大問題でしたね。最初は、かみさんにものすごく馬鹿にされて、信用されませんでしたね。中学の時、模型工作では3年連続で新潟県で1番だったんですよ。ところが木工は全く別物で、自分で歯がゆかったですね。道具をいかに使いこなすかが重要です。電動工具を手に入れてない時には、かみさんはちょっと冷ややかな目をしていましたね。かみさんが数日出かけている間に名誉挽回と思い、彼女が帰ってくるまでに頑張って作ろうと思ったことはあります。
松村:  やはりそうでしょうね。認められないと、俺が作るからってわけにはなかなかいかないですよね。
中野:  さすがに今では見直してくれて、頼みに来るくらいですね。
松村:  お子さんたちは自分では作るのでしょうか?
中野:  本棚くらいになるとお父さんに頼みに来ますが、それよりも小さな物だと娘も自分で作っていますね。
松村:  お子さんも榛名まで行って作るのでしょうか?
中野:  自宅でも作りますね。作業台の他に化粧ベニヤよりもすこし厚い板で角をまるめた物を作ってあげて、それを子供に与えたんです。この間も何かやっていましたね。
松村:  もともとは教育のためというよりもご自身のためというのがスタートですよね。
鈴木:  外国では自分でいろいろ作っているらしいという話は聞きますが、ワークショップの具体的な様子などはなかなか伝わって来ないですよね。それに興味をもつ技術的センスのある日本人が行っていないのか、行っているけど誰も書いてないのかわかりませんが,とにかく中野さんのお話で初めて知ったことがたくさんありました。
松村:  建築の世界の人は、向こうに住んでいても素人が作ることに関心を持たないことが多いですね。むしろプロの作った立派な建築を対象とするという限定の仕方をしているために、そのことに関心を持たないのではないでしょうか。
鈴木:  日本から留学や仕事でたくさん行っているはずなのに、今日伺ったような話はあまり聞かないですよね。文科系理科系が分かれ過ぎているからなのかもしれませんが、外国から伝わってないものがまだまだあるのだなと思いました。



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