講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


8.土地勘を取り戻すためのDIY


日本人もかつては細かい作業をやっていたであろうと思います。我々の祖父の時代は床板を直したり、塀を直したりと頻繁にやっていましたが最近は見ないですよね。これはどういうことかと言うと、土地勘を失っているのではないかと思うのです。



土地勘というのは昨年4月に経団連ホールでJAXAのシンポジウムの際に、全日空の技術部長の方が日本の航空機産業には「土地勘がないのではないか」と述べていたことに由来します。確かに民間機産業は優れているものの民間機全体の自主開発はしてないのですね。つまり、要素技術はあっても長い間開発経験がないわけです。だから日本の航空機産業は現代の技術にマッチした使い勝手のいい民間機を開発出来るのだろうか、作り方を忘れているのではないか、技術はあっても作る段取りを忘れているのではないかと指摘されていました。これは非常にショックでした。



実際の作業をしなくなると物を作る時の土地勘がなくなる。個人レベルだと例えば、冬のコートをかけるハンガーのフックにどんな物を使うかということは慣れていれば大体分かりますよね。フィッシャーをかませばいいのか、フィッシャーじゃだめなのか、壁との間のマージンはどの程度あればいいのかなど、そういう感覚は作り続けていないとなくなって行くんじゃないかと思うわけです。せめて自分の子供にはそういう土地勘を失ってほしくないという気持ちが非常に強かったわけです。そうすることでやっと日本人の物作りの土地勘というものが欧米並みになるんじゃないかと思います。標準的な教育の標準というのは世界標準になるという意味です。



ですから、家を作る時はどんどんどん手伝わせました。釘を打つのを時々交代したりしたため、ハンマーの跡だらけですがそれでも構わないから自分の打ったという証拠を残しておけということにしました。流しの耐水塗料も二人に塗らせたら、はけの跡だらけになったんですね。でも、わざと自分の残したあとを見ておけと言って、そうすることでやっと土地勘というものが生まれてくるんじゃないかと考えています。そうやって欧米と同等の家庭教育になり得るんじゃないかと考えています。とにかく土地勘を持って欲しい、と考えて家がどうやって出来あがるのかを見せることにしたのです。



著書の最後にも書きましたけれども、我が家を作るのはうちのポリシーの一つとしてやってきました。作るという行為を家庭に植えつけたかったんです。作るっていうのは、自分で自分流の物を工夫してきちっと完成させることです。そしてお父さんもそれをやると。実際には僕自身も家具とか道具類は既製品をよく買っていたんです。しかし、買って済ませるということにいつも抵抗がありました。ヨーロッパ、特にドイツの暮らしを見てきたからかもしれませんが、良い物を長く使うヨーロッパ風のライフスタイルの方がいいのではないかと、それが正解なんではないかと思うんです。



それで、出来るだけ木製の家具を作ることにしています。良い物がないならば自分で作ると。榛名での暮らしを始めて痛感するのは、木製の物は使いづらかったり欠けたりしてもすぐに直せるわけですね。不要になったら最後は燃料になる。つまり、フル活用出来るわけで、この方法は間違いでなかったなと思っています。



うちにはうちのやり方があると世のお父さん方は言うんですが、口だけではなかなか伝わらない。でも、DIYは目に見えるわけです。そうするといちいち口で言わなくても次第に子供たちも分かってきてくれたのかなと感じています。



DIYをやって変わったことは何ですかという質問がありましたが、変化ではないけれど獲得したものとして、自分で作る、そしてそれに対する誇りというと少し大げさですが、そうした態度が浸透したなと思っています。



例えば、長男・長女共に小学校低学年の頃はテレビCMに出ている学習机がうらやましくてしょうがなかったようですが、高学年になるにつれて少しずつ意識が変わってくるのが見えてきました。友達などが来ると自分のために作ってもらった机なんだということをそれなりに自慢している気配があるんですよね。そのうちに友達のほうがうらやましがるわけです。これは僕としてもほっとしました。その延長として、高学年になると自分で錐や鋸を使うようになり、子供の中にも浸透させることが出来たなと思います。DIYを日常的にやってきて、いいところは自分の求めている本棚やデッキが手に入ったということで、難点というのはかみさんの僕に対する依存度が高くなってくるということです。色々作ってとよく言われます(笑い)。



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