ライフスタイル考現行


6.作りながらデザインする


萩野:  とりあえず生活ができるようになったのは、2009年の3月くらいです。以前の家が極限の寒さでトイレも靴を履かないと行けなかったので、とりあえず外気を遮断して暖かくなればいいやという心持ちでした。
佐藤:  確かに内壁の仕上げはまだのようですが、このまま石膏ボード現し仕上げにしてしまっても違和感なさそうです。
萩野:  住めるようになると作業が進まなくなってしまいまして…。2007年3月に能登半島地震が起きると土蔵の保存再生活動などが忙しくなり、自宅の方には1年間ほど一切手をつけられず、家族の反感を思いっきり買ってしまいました。居間の下のRC部分は事務所か作業場にする予定ですが、今のところ室内化できず、まだ材木やら引っ越し荷物を置いたままになっています。
鈴木:  居間がとても広いですね。空調はどのようにしていますか。
萩野:  この地域の民家は「9間6間」と呼ばれる大きな家が多いことに影響されたのか、それとも間仕切をつくる経済的・時間的な余裕がないのか、バーンのような大空間、一つの大きな部屋です。長男はプライバシーがないと訴えていました。しばらくはトイレのドアも無かったですからね。

暖房は薪ストーブと温水のラジエターを利用しています。薪は自分で貯めていないので、山仕事をしているお爺さんからトラック一杯分を分けてもらっています。冷房はこの地域では一般的に不要で、昼間は暑いのですが朝晩は風を通せばしのげています。
西田:  断熱材がバッチリ入っているんでしょうね。壁は仕上がっていなくてもとても暖かい。それに大きな窓はペアガラスの木製サッシですね。
萩野:  窓は全開できるように作っています。外のデッキは将来もっと広げるつもりで途中のままになっています。デッキと外壁には能登ヒバを使っていますが、時間が経過すると、能登ヒバはだんだんシルバーに変わっていきます。
西田:  これも自分で工事をしているのですか。
萩野:  自分でやったりしますが、手伝ってもらった地元の大工さんにはそんなことより早く図面を描いてくれと言われていました。しかし、自分で作りながらデザインしていくという考え方は大事です。

以前、東京の大学で非常勤で教えていた頃は、手でものを作る感覚、つまり図面や模型、ましてやコンピューター画面だけでなく、実際にものを作る中にデザインのヒントがいっぱいあると信じて、一坪の小屋を作る課題を出したりしていました。また、アメリカで生活していると、専門家でなくても多くの人が自分たちでできる範囲で家に手を加えていました。

私が能登へ来て、半自力建設を試みたりワークショップを行ったりしているのも、その考えの延長線上です。建築家はただものを作っていくのではなく、住む人の生活そのものに向きあわなくてはならないと思いますし、まず建築家として自らのライフスタイルを作っていこうと無謀な挑戦をしているわけです。


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