社会経済的大転換に対応した
持続可能な住宅都市デザインを考える
パリのイダルゴ市長は再選のときの公約として「15分都市政策」を掲げました。この概念は、カルロス・モレノ教授が提唱したものです。日常的買い物や通勤や医療などに、自動車を使わずに15分でアクセスできるようにするというものですね。さらにこの政策でコミュニティ活動やアクティブな運動がしっかりと行われるようになります。
パリは中高層の建物が主で、上階は住宅で、下階は商店やオフィスとなっています。東京のようにオフィスビル群もしくは住宅群が広がっているということではなく、住宅と他の用途が混在しているので、パリ市内だったら15分都市が実現できるとしても、東京では色々と難しいかもしれません。しかし例えば福岡市のように通勤時間30分くらいの都市であれば、通勤時間30分を20分まで短縮して、20分の中で生活が満たされるような計画は考えられるかもしれません。これは少子高齢化についてもとても役に立つのではと思っています。高齢者にとって間違いなく住みやすい都市だと思います。色々な人に会えるし、徒歩で色々なところに行けます。15分での運動は、高齢者にとてもいいコンセプトだと思います。
さらにイダルゴ市長の、オープンスペースは緑にしていくといった、緑を増やして気候変動に対応した都市とする政策がとても大事です。パリ五輪の中継で、充実した緑が映されていました。ヨーロッパの広場というと、普通は石畳ですが、そこを森にしていこうという発想です。そして建築物も建替えたり、少し手を入れたりするときには、緑をここに入れなさい、入れれば多少容積緩和しますという、インセンティブゾーン的なことをやっているのです。ヨーロッパでは、住宅の形までほぼ都市計画で決められていますが、緑をつくることについて自由度を多少与える制度になっています。
公民分担の緑化も考えられています。バルセロナでは、道路を一方通行にした上に、道路入口を車が入りにくいようにして、さらに車の通行速度を落とすようなつくりにしているところがあります。コロナ禍以前に私達が訪れた時は、道路上で子どもがサッカーなどできる歩車共存の広場空間がつくられていました。しかし気候変動が進んで、暑熱対策や水害に対して高齢者や子どもが安全安心に暮らせるような都市づくりを考えようとなり、広場空間に緑をつくり、土を多くする政策に変わってきました。最初から気候変動対策ではなかったのですね。
シアトルでは、4分の1マイルから半マイル内で生活できるコンパクトな都市、高齢者や子どもに優しく、住みやすい、ウォーカブルな都市をつくりましょうという、日本でいうとコンパクト戦略のようなものをつくりました。そこにも15分都市の考え方を集めて、近隣住区プログラムをつくりました。アメリカは元々車社会の国でしたが、1990年代くらいから公共交通のモビリティが充実した、都市へ変えていこうということが始まりました。ちなみに東京の方が、公共交通の充実したウォーカブルな都市であり、東京のような街をつくるということですね。
シアトルの市役所は、マスタープランに則り、ひとつひとつの住宅地の環境整備をコントロールするというやり方ですし、ヨーロッパもそうです。シアトルの場合は、炭素排出の予測を行っています。そして交通面では、炭素排出がポジティブになるとされています。これは交通により取り組まれる炭素吸収量が、交通による炭素排出量を超えるという意味です。シアトル全体が炭素排出を全く行わない都市に2045年になると考えられています。
4) 新しい時代的要請に応えたソリューションとしての都市・地域
以上のヨーロッパ・アメリカの取組のように、コンパクトシティや高齢者対応、気候変動対応は、バラバラではなく、一緒に進めるべきと考えられます。住団連の成熟社会居住委員会には「高齢者住まい方ワーキング」と「まちな・み力創出ワーキング」がありますが、2つのワーキングが共同で研究を進めることが大事かなと考えています。
我々の社会は大転換の時代にあります。都市の少子化は先進国の共通した問題で、それを克服するために移民を受け入れると、社会的な対立が生まれてくる。どちらを選択するかを迫られています。ヨーロッパは、東西に分かれていた時代があって、それが解消された時に、自由に移動できなかったことは良くなかったという価値観が生まれて、移民を受け入れるようになりました。そのハレーションが色々なところで起きています。アメリカもそうです。日本は移民を極めて限定的に受け入れてきましたが、そうなると高齢化で苦しむことになります。
新しい都市計画や住宅地計画のあり方を再度つくり直すこと、つまり近代の都市計画や近隣住区論が生まれた頃のような、新しいイノベーションが、今求められているのではないでしょうか。
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