生活・ケアから住まいを考える
-介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に期待すること-
(3) サ高住の課題
1) 制度化の課題:定形化・低水準化
以上のように、人々の根源的な生活に対する要求が、新しい住まいのカタチをつくり出します。一方で、サ高住や有料老人ホームについては、住まい方に関する考えがあいまいなまま、介護需要という経済性や制度が先行してしまっていることが、ときにご批判を受ける要因ではないかと考えています。
また、理念をもとにつくられた施設種別でも、制度化というプロセスを得た途端に理念が失われてしまうという事があります。
例えば、小規模多機能型居宅介護は宅老所をモデルとしており、住宅を再利用したなじみの環境や、段階的な環境移行、日中と夜間の居場所の連続性といった理念に基づき制度化されました。しかし、小規模多機能が制度化されてしまうと、部屋が均一に並ぶといった当初の理念が見られない建物が数多く建設されることになります。このように制度化前のモデル事例の時には素晴らしいが、制度化されてしまうとモデル事例の良さが剥ぎ取られてしまうという状況は、ユニットケア型施設でもグループホームでも見られることです。また、小学校建築など公共施設全体の問題として言えることかもしれません。
制度化の課題として、生活やケアの質を制度で語ることは難しく、利用者の声 (改善点) を把握していない、改善の声を上げにくい、上げられない、市場原理が機能していないということがあります。事業者が制度は見て、利用者を見ていない。つまり何をつくるべきかではなく、どう制度が動くかに注目していることが課題になっていると考えられます。そのため、最低限度として設定された基準が、“最頻値化”するという問題が生じています。
2) サ高住の現状
このような最低基準が最頻値化している状況は、サ高住においても見ることができます。
サ高住の制度では1戸あたりの最低居住面積は25m²、居間、食堂、台所等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共用の設備がある場合は18m²となっています。
しかし、全国のサ高住の実態調査を行ったところもっとも多いのは18m²-19m²、次に多いのは25m²-26m²となり、最低基準が最頻値となっています。特に18m²台が圧倒的に多く、緩和基準が最も多いという結果を招いて言います。
それでは次に住戸と共用部の合計面積をみると、両者を足しても25m²以下の住宅が25%程度みられました。これは住戸は小さくても共用部が充実しているのであれば、住戸を狭くしてもよいという緩和基準の主旨から外れる結果になっていると考えています。また、廊下なども共用部を含めた1住戸当たりの平均延べ床面積をみると、サ高住では34-47m²、特養では51.6m²です。つまりサ高住の1人あたりの床面積は特養よりも小さいものとなっています。
次に共用部の構成を見ますと、住戸面積の小さなサ高住において、廊下は9割以上が中廊下・屋内型となっています。普通の住宅であれば中廊下型をつくることはないのですが、サ高住では中廊下型がとても多くなります。食堂も集中型となり複数階ある場合でも1つの階に集中して設けられている状況が見られました。18m²の住戸の実態としては、要介護高齢者が多く入居していると考えられますが、このような居室と共用空間の距離が遠い空間構成は、かつて施設計画の中で否定されてきた空間構成であり、このような空間構成が多いという実態は高齢者の自立の維持にとって問題があると言えます。
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