フィンランドの高齢者住宅・施設事例から見る日本のこれから
〜日・フィンでの居住者アンケート結果を交えて〜 <その2>

【質疑応答・意見交換】

成熟研委員:フィンランドの24時間サポート付き高齢者住宅がサービスハウスになり、一般型高齢者住宅はサービスハウスにあたらないということでしょうか?24時間サポート付き高齢者住宅と一般型高齢者住宅のハード面での違いはありますか?認知症グループホームはどのような位置づけになるのでしょうか。
石井教授:24時間サポート付き高齢者住宅と一般型高齢者住宅の両方がサービスハウスです。両者はケアの提供によって区分されますが、ハード面は同じです。グループホームはサービスハウスに併設されているものはサービスハウスに位置づけられます。ただ認知症対象の介護施設として位置づけられるものもあります。
成熟研委員:集合住宅のエレベーター設置について、日本では階段室型の集合住宅が多く、技術的な困難があります。フィンランドではどうでしょうか。
石井教授:フィンランドにおいても階段室型が多いですね。ただ日本では建替えた方がリーズナブルという考え方となりますが、フィンランドでは建物を壊さないということが原則としてあるため、建物を残して、エレベーターを付けるということになるようです。
成熟研委員:認知症ケアに関する、デザインとか内装で特徴的な点というところはどういうところがあるのか教えていただけないでしょうか。
石井教授:認知症ケアとは限らず、色彩をよく使っています。認知症のためにこういう環境をつくるというより、住宅として色彩を積極的に使っていくという考えのようです。家具や照明も介護用とか高齢者用というものは基本的になくて、家で使っているようなものがそのまま使われています。障害者の方の住まいを見ても、普通の家と基本的には変わらない。住まいとして変わらないことがあるということを教えていただいています。
小田専務:施設から住宅への流れは、政策側の要請なのでしょうか。それとも国民の要望を反映したものなのでしょうか。日本もこの方向で進んでいるのですが、現実的には多くの人が特養に入りたいとしていながら、「いやいや皆は住宅に住みたがっているのだ」といったことが議論されています。
石井教授:もともとは政策的なところから来ていると思います。やはり施設系はコストがかかるから、自宅で暮らしてもらうという考えはバックにありますね。ただ一方で施設の環境を見ると、これではまずいと認識された面もあると思います。自宅で訪問介護などを使いながら暮らしている方が多いですけど、自宅ではどうにも生活できないほど弱ってきても、施設に入居せずに暮らせる仕組みが、高齢者住宅なのかもしれないし、グループホームかもしれない。住宅で住み続けるというものは結構大変なことで、老人ホームに入居した方が楽かもしれない。それでも自分で生きていくという考えを日本人以上に持っているということが、根底にあると思います。国の政策もその上で成り立っていることかもしれないですね。
小田専務:今日のプレゼンテーションを見ても、自立・自律という言葉が出てきているのですが、それが前提にあるならば、「もともと施設がありました、だけど今は変わりつつあります」というストーリーにはならず、「最初から住宅で頑張っています、今もそうです」というストーリーになると考えていたのですが、自立を重んじる国においても最初はその施設でケアを受けることで始まったのかと、お話を伺って考えました。
石井教授:そこはスウェーデンなど、他の北欧の国を見てもそうですね。やっぱり施設というものが出る時期があって、それが一つの高齢者を支える形となっていました。
小田専務:やっぱりコストのことでしょうか。
石井教授:コストは大きいですね。北欧もそんなに豊かじゃないというか、社会保障にそれだけお金をかけるということは、相当厳しくなっているので、いかにコストを削れるかということを徹底的に考えています。だから人手の問題をITでカバーできるのであれば積極的に導入するとか、日本もそういうことにならざるを得ないかと思います。お金を投入しながら結果的にコストを安く済ませるという、先を見た改革は大胆にやっています。
成熟研委員:サービスハウスが40m²ぐらいでグループホーム20〜22m²ぐらいということは、日本の基準の倍ぐらいの広さになります。その辺の面積の考え方や、入居者の所得レベルと賃料の設定の考え方はどうなっているのでしょうか。確かに人口密度が低いということもあるでしょう。しかし、運営事業者側の収益と、入居者側からするといかにローコストで入れるかというところのバランスはどのようになっているのでしょうか。
石井教授:収入のベースは日本とほぼ同じだと思いますが、土地の値段が違います。ヘルシンキでも市が7割8割の土地を持っており、土地の価格がコントロールできています。家賃は日本円にすると決して安くはないのですが、誰でも入れる仕組みは作っていて、自分が持っている財産で入れない場合には、家賃を補助する仕組みはかなりあります。家売って転居する人が多いのですが、それでも足りなければ行政が補助する仕組みがつくられています。
成熟研委員:日本にしても質のいい高齢者住宅は40m²くらいあった方がいいとなりますが、賃料設定とのバランスのことを考えなければいけない。日本で質のいい住宅をつくるには、根本的にそういうところから考え直していかないと難しいのではないかと思いますね。
厚労省橋口氏:さきほどのアンケート回答者の、居室の平均的面積はどの程度のものでしょうか。
石井教授:フィンランドのサービスハウスは基本的に40m²です。日本は、学研ココファンの比較的自立した方が調査対象でしたので、25m²ではないかと思います。


以上