講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.管理主体の持続性
松村:  レッチワースのような管理主体の例が、イギリスでも他にないというのは、どのように理解すれば良いのでしょうか。他所で実現するには非常に難しい条件があったのでしょうか。それともそうした管理主体の意味を認める人が、そもそもいないということなのでしょうか。
齊藤:  当初レッチワースは借地契約で住民に土地を提供していましたが、イギリスでは1967年に借地を購入できる法律ができます。他のニュータウンでは土地を住民に全て売ってしまい、管理主体は消えて行きました。当時はヘリテージ財団のような管理主体を残すこのとの価値が分からなかったんですね。でも管理主体のあるなしの差は時間が経つほど顕著になっていきますし、実際レッチワースは100年近く経ってから評価されています。
鈴木:  レッチワースの管理主体は何度か大きく変わりましたよね。潰れかけたこともあったと聞きました。
齊藤:  最初はファースト・ガーデンシティ社でしたが、その後に公社になってから、現在の財団になりました。その間、何度も経営危機に陥っています。
ちなみに2005年に調査した時の財団トップは経営能力が高いという評価を得ていましたが、2012年に再訪した時には別のトップに代わっていました。スタッフも156名から120名に減っていて、財団事務所も駅前から離れた場所に移っていました。積極的な情報開示が減ったという印象も受けました。経営難でしょうか。いずれにしても、財団は時代とともに変わり続けているという印象を受けました。
<2005年から2012年までの変化>
・ボスが変わっていた。
・156名のスタッフが120名に。
・財団の事務所が「駅前」から「離れたところ」へ
・タウンセンターはまだ人が入っていない
・きめ細かな建築のガイドラインに。年度別
家の持ち主と建築家両方にとって納得がいくものを、より明瞭に制定するため2008年に変更した。これは家が建てられた年代を基準とし、1920年代以前に建てられた家には最も厳しい基準を課している。加えて、重要な建物を認識するため街のサーベイを行なった。それらの建物には高い基準が設けられている。
・Architectural Heritage Grants 中止
新しい仕組みを考案中で、それは集団住居や特に重要な建物を対象としたものになるだろう。ここに基金が捻出されることになる。窓や外部の塗装、ドア、屋根のタイルなどを含む予定で、集団の価値を高めることを目的とする。加え、補助金が再開した際には、オリジナルの外観を修復しようとする家の持ち主への補助金は少なくなる予定。
・情報公開性の低下?
松村:  レッチワースでは、この組織の経営が安定しないと、住環境の持続性も危うくなりますよね。
齊藤:  そうですね。この財団は不動産収入が7割を占めているので、オフィスや商業施設にテナントが入らないと経営が厳しくなります。タウンセンターなどはしばらく空き家になっているので、ちょっと気になりますね。
鈴木:  現在は居住者が土地を所有しているので、財団へ支払われる借地料がなくなってしまったわけですよね。それが財団の収支に影響を与えているんじゃないですか。
齊藤:  正確には土地所有の形態には、フリーホールドだけでなく、999年間のリースホールドもありますが、どちらの場合でも借地料を定期的に支払う必要はありません。ですから確かに借地料という収入はなくなってしまったんですが、もともと大きな額ではありませんでした。レッチワースで借地契約が行われていたのは、景観を壊すような住宅が建つのを防ぐためでしたから。
鈴木:  管理費を集めずにやっていけるのは不思議な感じがしますね。
齊藤:  財団はレッチワースのオフィスや店舗を全て所有しています。これらの不動産の価値を上げて、その賃貸収入で経営をしているということですね。
松村:  僕の身近な例を挙げると、東急電鉄は意識的に街全体を運営している印象があります。もともと田園都市株式会社ですしね。
齊藤:  東急は日本型レッチワースをはっきりと自負していると思います。どちらも不動産の価値を上げた利益が住民と自分たちに還元され、それによって更に街の価値を上げていくサイクルになっています。東急は駅前に無料のインフォメーションセンターを作って、そこで多様な住まいに関する情報を提供しています。行政と手を組んで街の価値を上げようとしている点も類似しています。まあ、東急の取締役会に住民が参加できるわけではないので、住民の意向の反映の仕方はレッチワースよりも間接的になりますけどね。



前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP