講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.アトリエづくりから始まってしまうわけ
中村:  立川時代から現在に至るまで、生活の初期設定の仕方がある意味で筋が通っています。結局、自分が構えるアトリエは、不動産的なあり方というかその街での社会的なあり方が立川からずーっと繋がっているんですよね。普通のアーティストはできたところから始めますが、僕は制作の場のあり方から作ろうとしています。
松村:  サブリースみたいなものですよね。又貸しではないけれど借りるリスクを中村さんが負担している。
中村:  1人で家賃は払えないからみんなで払おうよということです。コツとしては僕より声が小さい人を集めることでしょうか(笑い)。それと出来るだけ職種が違う人を集めることですね。
鈴木:  なるほど。ずーっとやってこられたということですね。でも全てのアーティストが制作の場を作るところから始めるわけではないですよね。
中村:  違いますね。もっとも僕らより上の世代の方がそうした意識は強いと思います。1970年代から80年代は貸画廊が全盛の時代です。若手が発表に使える美術館なんてなかったから、狭い部屋で日々の生活を送っていても、作品を作るときはギャラリーを借りて思いをぶつけていった。ですから当時は街のギャラリーそのものがスタジオになっていた。

僕らはそうした制作の姿勢から影響を受ける一方で、そうした生活は日常の思考をないがしろにしているんじゃないかと疑問に感じるところもあった。結局、日常的な場の身体感覚が作品に直接関係すると僕は思っています。もちろん、それはどこで作るか、つまり街を選ぶところから始まると考えています。

留学もそうです。40歳くらいまでの思考やアイデンティティをどこで形成するかがアーティストにとって大切で、うかつにヨーロッパに行ってしまうとその社会で形成されるアイデンティティが勝手に入ってきてしまう。だから意識的に留学先は韓国にしたんです。そこからヨーロッパに行くつもりだったのですが、もう展覧会ではガンガン行っていますから改めてかしこまって行く必要もないかなと思うようになりました。50歳近くなりましたがこの志はある意味で正しかったと思います。
鈴木:  「うかつにヨーロッパに行ってしまうと」って深いですね。
松村:  おもしろい。うかつに行くよね、普通(笑い)。



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