講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.天高4m以上・最低30坪、家賃は限りなくタダに近く
中村:  帰国後に最初に住んだのが広尾です。不動産屋で「アーティストで家内が韓国人、犬が好き」というとほとんど相手にしてもらえなく「アーティストをデザイナー」と変えたら広尾ではすぐ見つかりました。その後「天井高6m以上/最低30坪/家賃10万円」という条件でアトリエを探し始めました。もちろんこんな条件じゃほとんど相手にされないわけですが、たまには「ちょっと座れよ」と言って色々と物件を出してくれる不動産屋がいる。でもどうしても家賃10万円というラインがクリアできない。それでどんどん都心から離れて行って、埼玉県草加市の物件に行き着きました。

かつては1、2階が倉庫、3階がアパートとして使われていた建物でかなり広い。もっともゴミがたくさん残っていて、そのゴミ捨てをしてくれるならOKという条件でした。それ以上に問題だったのが動線です。内部が2つに分離されていて使い勝手が悪い。そこでチェーンソーで壁に穴を開けて使っていました。
鈴木:  話の途中ですが、チェーンソーは持っていたものですか。
中村:  そういう道具は普通に持っています(一同爆笑)。草加のアトリエでもシェアを始めて2年くらいいましたが、だんだん若い人たちが集まってきたので、僕は都内に引っ越すことにしたんです。物件は湯島に見つけました。旗竿敷地の木造一軒家です。朽ち果てていたけど自分でリノベーションすれば住めると思った。改修案を大家さんにプレゼンすると気に入ってくれて、改修費を300万円出してくれたんですよ。僕も300万円出して、工務店も一応入っていますが、基礎から全部自分たちでやり直しました。「湯島もみじ」と名付けましたが、今も住んでいて家賃は10万円です。

その一方でアトリエが欲しいので、天高4m以上/最低30坪/家賃は限りなくタダに近くというさらに無謀な条件で探しました。すると竹橋近くにある「精興社」という老舗の印刷屋さんが見つかった。1階の天井が4mあって、倉庫にしか使っていない。湯島もみじの大家さんもそうですが、神田の方々には旦那気質があるというか、アートに対してシンパシーを持っている人が多い。話をしてみると精興社はギャラリーを持ちたいと考えていて、かつて工事見積りをしたこともあったんだそうです。でも数千万円かかるということで断念した。そこで1週間だけ貸して頂いて個展をしたんです。ビニールシートで仕切っただけでしたが、擬似的に展覧会をして集客効果を見せたんです。

それで信用が得られて借りることができた。工事は材料費のみ大家負担で3回に分けて自力施工しています。「カンダダ」と名付けましたが、ここを拠点にして私が代表をしている「commandN」というコンテンポラリー・アーティスト・グループが運営をしていました。ピンポイントで人が訪れる場所になり、アートのイメージが5年間くらいで宿った。そうしたイメージは全くないエリアでしたから、この変化に大家さんが一番驚いているようです。



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