講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


園田真理子さん、村口峡子さんと「楽隠居インフィル」を見て



今回は、私たちの研究グループが八王子の都市公団技術センター内に試作した「楽隠居インフィル」を、住宅・すまいWEBでもお馴染みの明治大学園田先生、そしてライフスタイル研究会の鈴木、西田両先生に見てもらい、設計者の村口先生とともに、これからの高齢者のライフスタイルやそれを支える居住空間のあり方について語り合う形式をとった。
「楽隠居インフィル」は高齢者の暮らす既存の集合住宅を、もっと楽しく暮らせる空間に改造しようと開発したもので、身体能力の衰えにのみ対応しようとする多くのバリアフリー化改造とは趣を異にする。もともとの発案者は、都市公団の小畑さん。自立して楽しく暮らせる時間を少しでも長くできるような改造をというそのコンセプトに共感する安藤さん(千葉大)、石塚さん(積水ハウス)、大原さん(横浜国大)、忍さん(竹中工務店)、後藤さん(積水ハウス)、深尾さん(都立大)、それに私が小畑さんとともに研究会を立ち上げた。私の研究室の関君、金君、熊谷君、江口君たちも積極的に参加してくれた。設計はインテリアデザイナーの村口さんと野田さん、部品製作や現場施工には都市基盤整備公団、積水化学、ウッドワン、INAX、不二サッシリニューアル、コクヨ、川島織物、パラマウントベッド、アミノ、ヨコタをはじめ多くのメーカーの方が参加して下さった。
研究会では、今回見学したモデルCを含め、都合3モデルの試作を行った。そこでの主眼は、楽隠居生活を支える新たな部品を開発することだった。私自身は、それらを新しいライフスタイルを支える「道具づくり」の一つと捉えてきた。その中で重視したのは、空間やその関係を規定する「道具」。具体的には、外部との間の行き来が自由にできる開口部品、隣の部屋との関係を作る建具、そして既存の和室を水場に変える大型の防水パンである。今回の鼎談が、期せずして外部との行き来、そして水場のあり方に終始したのは、私にとっても、また設計者の村口さんにとっても、研究会メンバーにとっても、我が意を得たりの感がある。
道具づくりは、新たなライフスタイルに関連して私たちが確実に貢献できる分野の一つである。(松村



楽隠居インフィルは,部材・道具レベルで高齢者の生活を支えることをきちんと追求し,開発したプロジェクトである。とかく建築計画屋は,空間構成や社会関係や行為のコントロールで勝負しようとするが,確かに生活(とりわけ身体レベルに関わる生活)を現実に規定し保証しているのは,空間などよりある種のデバイス類のデザインだということはまちがいない。とはいっても,実際に部屋の中に入ると,ついつい,この部屋の向こうには家族の誰が生活しているのか,この仕切は普段は開いているのだろうか。あるいは,1階ベランダから出入りができることは様々な交流の可能性をもつが,実際に来客がきた時に一緒にお茶を飲むとしたらどこで飲むのだろうかと,気になり考えてしまうのが建築計画屋の性(さが)なのであった。(鈴木



最近自宅にベッドを購入した。昔からベッドで寝たいという願望はあったのだが,腰痛持ちの私は「ベッドは腰に悪い」と勝手に思いこんでおり,長い間せんべい布団生活を送った。しかし,ベッドで寝るようになり以前より腰が軽くなった。もっと早くこのベッドに出会っていれば良かったと少し後悔している。
椅子やベッドという身体系家具は,身体を直接支える家具なので自分に合ったものを慎重に選ぶ必要がある。今回見学した楽隠居インフィルは,部屋全体が オーダーメイドされた身体系家具の集まりと言って良い。住まい手の身体機能の低下をさりげなく支えてくれるインテリアは心も軽くしてくれるに違いない。
しかし,風呂やトイレ,ベッドなどの使い方や習慣は,長い年月の間に身体に染みついており,そう簡単に変えられるものでもない。今後この分野のデザインは飛躍的に進歩して行くに違いないが,人間工学的な解決よりも住まい手の心理的・習慣的な部分を重要視しないと受け入れられにくいことを実感した。(西田


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