ライフスタイル考現行


社会システムの〈外〉としての空き家

1.ゴンジロウとの出会い
2.社会システムから解放された〈外〉
3.空き家と占有原理
4.空き家と住宅市場
5.空き家と学びの場
6.コロナ禍とゴンジロウ塾



1.ゴンジロウとの出会い
鈴木:  偶然が重なって「茅葺民家ゴンジロウ」と出会ったとのことです。もうちょっと詳しく話して頂けませんか。
岡部:  学生の設計課題で館山をウロウロしてた時、塩見地区の旅館のオーナーと知り合いました。毎年、新しいビジネスを一つは始めないと気が済まない方で、ものすごくスピード感がある。「うちの集落を見てよ」と誘われて、一緒に街歩きした時のことです。私がボロい茅葺民家に興味を示した途端、「じゃあ、中を見せてもらおうか」と言って、向かいに住む大家さんを呼びに行ってしまった。それでその茅葺民家を見せてもらっているうちに、引っ込みが付かなくなってしまいました(笑い)。
ゴンジロウの大家さんは大らかな方ですが、さすがに見ず知らずの女性の大学教員なんかに貸したくないという感じでした。貸したらメンテナンス義務なども生じますから、面倒臭いと思うのも当然です。でも旅館のオーナーが「とにかくやらしてみようや」と言って、代わりに借りてくれた。こうした仲立ちがなかったら、ゴンジロウを借りるのは無理だったと思います。今でも旅館のオーナーが借りてくれていて、大家さん承認のもと私たちが使っています。さすがに固定資産税と光熱費の分だけは払っていますが、実質的な家賃はありません。こうした状態が10年間ほど続いているわけですが、それがいいのかなと思っています。ゴンジロウの大家さんは、1年ほど前まで塩見地区の区長さんだったんです。集落を代表する方の持ちものなので、集落の人たちの関心が違うわけです。仮に私が買ってしまったら、無関係なものと感じてしまうように思います。

松村:  そうした関わり方が続いて来たわけですね。
岡部:  大家さんも月例の協議会に参加されて、ゴンジロウの今後を一緒に考えている。積極的に提案したりしませんが、集落の人たちに使ってもらえることをじんわりと喜んでいるようです。もっとも、大家さんが代替わりしたらどうなるか分からないところはあります。浄化槽を作ったりキッチンを作ったりと、ゴンジロウには結構なポケットマネーをつぎ込んできましたが、その時は失っても仕方ないかなと思っています。
松村:  基本的なお金を出しているのは、岡部さん個人なんですか?
岡部:  たいていのお金は私が出しています。助成金ももらったりしていますが、学生の交通費や職人さんの謝金に充てています。ゴンジロウは大家さん個人の持ちものなので、助成金を改築費用に使うことはできない。それに、私が好きにやりたいという気持ちもあります。私に法的な権利は何もありませんが、だからこそ所有をベースとした社会システムから解放された取り組みができると思うんです。



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