スウェーデンのコレクティブハウスにおける
 共食活動の運営と環境

 

4) ストックホルム市のコレクティブハウス
 ストックホルム市のコレクティブハウスには2つのタイプがあります。1つはシニア型コレクティブハウスで、「人生の後半生のための住まい」と呼ばれる、40歳以上の子どものいない単身・夫婦世帯のためのコ・ハウジングです。もう1つの多世代型コレクティブハウスは、多様な世帯・年代が居住する住まいですが、離婚率の高いスウェーデン社会において単親世帯の入居が多い印象を持っています。
 スウェーデン全体では2000年以降コレクティブハウスの量が大きく増えておらず、2000〜2021年までの新規建設数は22箇所でした。さらにコレクティブハウスとしての運営を中止したところがあります。コレクティブハウスのスウェーデン全国の供給促進を行うKollectivhus Nuという団体の2015年調査によると、運営を中止したところが55件中9件ありました。中止理由は①誘致した自治体の理解不足、②住宅の主旨を理解した入居者が確保できない、③理解の無い住民への転売、というものでした。
 しかしストックホルム市をはじめとする三大都市部では、先ほど申し上げました住宅不足や、単身者が多いということがあり、自治体の政治的判断により公的賃貸住宅としてコレクティブハウス供給を積極的に進めています。また 理解ある民間事業者による建設事例も増加しています。

5) 社会イノベーションとしてのコレクティブハウス
 都市部の住宅需要がひっ迫している中でスウェーデン政府もコレクティブハウスに注目しています。イノベーション庁では2016年から研究プロジェクトとしてコレクティブハウスに取組んでいます。展開している研究内容は次の3つです。
コ・ハウジング:狭小住戸と広い共用空間を持つ集合住宅のコミュニティ形成を検証しています。
ビルディング・コミュニティ:一般の人々に負担少ない住宅供給の手法として、多様なステイクホルダーの協働による住宅供給と都市開発の可能性を検証しています。
住宅の順応性とシェアリング:シェア居住の運営や住民による自主的な住宅建設活動の住宅市場への参入を検討しています。

6) 終の住処としてのコレクティブハウス
 これは私なりの視点なのですが、特にシニア型のコレクティブハウスは終の住処になり得るのではと考えています。
 緩和ケアモデルに関する文献を調査したところ、“Good Death”という概念が緩和ケアモデルに存在しています。“Good Death”に関してある文献では、「自宅において家族や友人と共に過ごすことが、最も重要な最期の迎え方の一つ」とされています。別の文献では、“Good Death”について、「死にゆく人が自宅において慣れ親しんだ環境に囲まれながら平穏な心を保ち、自分の生活を制御する力を持ち続けることが望ましい」こととされています。緩和ケアの時期においても何かの役割を持ち、自分の生活を自分で制御することの大事さは、私の母を見ていて感じることです。つまり、住まいで最期を迎えることが“Good Death”の一要因になりうると考えられます。
 スウェーデンには安心住宅という、75歳以上(自治体によっては65歳以上)を対象にした、制度化された住宅があります。しかし実際の安心住宅を3件調査したところ、終末期高齢者を居住者で支え合って受け入れる可能性や経験がほとんど無いことに対して、シニア型コレクティブハウスの3件では、受け入れ可能で、受け入れ経験があるとのことでした。