生活・ケアから住まいを考える
-介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に期待すること-
② 個室ユニットケア
個室ユニット型が制度化される以前の特別養護老人ホームはグループホームとは異なり“多床室+大規模食堂”という空間構成でした。入居者は居室と食堂を往復する生活で、職員は50人以上の入居者の介助に追われていました。このような環境の中でもっとグループホームのようなケアを行っていきたいという実践者の思いから生まれてきたのがユニットケアです。ユニットケアでは、施設内を小規模に分割し、そこでグループホームのようなケアを行っていこうと考えました。ユニットケアは個別ケアを実践するための有効な方法であり、その考え方は多くの実践者に広がってきました。そして、2003年に個室ユニット型特別養護老人ホームが制度化されました。
個室化の際にもお話ししましたが、個室やユニット型という仕組みは、建物やケアシステムが先にあったのではなく、入居者の生活のあり方やケアのあり方を考えていく中で生まれてきました。要介護高齢者の施設が足りないのでとりあえず箱を整備しようというプロセスではなく、目指していきたい生活やケアの理念があり、それにハードや制度を組み立ててきたと考えていただきたいと思います。
また、ユニット型が制度化されて10年以上が経過しますが、それ以降の大きな発展が見られていないのが現状です。ユニット型は制度により詳細な内容が決まっているため、ユニット型を超える施設がなかなか生まれてきていません。制度としての自由度が高い有料老人ホームについても調べたことがありますが、ユニット型を超える生活やケアの提案は見られていないと言えると思います。ユニット型の場合、各ユニットの独立性が高く、各ユニットが閉じた計画になっている場合が多くなります。ユニット内の人間関係の密度が高まる一方で、少し窮屈な面もあります。このあたりのユニットの問題点を超える提案が期待されます。
2) サテライト特養
ユニットケア制度化以降の話として、地域密着型施設を取り上げたいと思います。地域密着型施設とは、29人以下の小規模な施設であり、地域の中に小規模な施設が複数点在する事で地域を支えていこうとする仕組みです。そして、大規模な施設を地域に展開していくときに活用できるのがサテライト型特養です。サテライト型特養とは大規模施設と連携と取りながら地域を支えていく地域密着型施設のことを言います。
サテライト型特養については、事例をもとにご説明したいと思います。事例として取り上げるのは、福岡県大牟田市にある「ケアタウンたちばな」です。
ケアタウンたちばなを運営している社会福祉法人天光会は、大牟田市の中でも古い特養であり、建て替え時期が迫っていました。一度に建て替えることも可能でしたが、より地域を面的に支えるためには、大規模な施設だけではなく。小規模な施設を地域に点在させていくことが重要でした。そこで本体施設を建て替える前に、本体の定員から20名を切り出し、地域の中に小規模な特養を整備しました。それがケアタウンたちばなです。また、天光会ではその後も20名のサテライト型特養を別敷地に建設し、地域を面的に支える仕組みを構築しています。そして、2018年に残りの本体施設(定員80ショートステイを含む)を別敷地に移転し、本体の建替えが終了する予定です。最初のサテライト型施設の建設から、本体施設終了まで10年以上が経過していますが、長い時間をかけて地域の中に根を下ろすとともに、職員を教育してきたいと言えるでしょう。
「ケアタウンたちばな」では、施設らしさの軽減や、地域住民の方が気軽に利用できるように建物は分棟型とし、誰でも自由に入ることができる道路を敷地内に設けています。建物の配置は、入口型から地域交流施設、居宅部門、通所介護部門(認知症デイサービス、小規模多機能型居宅介護)、特養部門と並んでいます。元気なうちから地域交流施設に通ってもらい、介護が必要となったら居宅介護や訪問介護を利用してもらう。少し介護の必要性が高くなってきたら小規模多機能を利用しつつも自宅で生活してもらう。そして、どうしても自宅での生活が困難になった時には特養を使ってもらうというコンセプトで作っています。地域住民ができるだけ自宅で生活できることを支援しつつも、どうしても難しい場合の受け皿を用意しておくことで多くの人々が住み慣れた地域の中で最後まで生活できると考えています。
また、天光会では、特養を新設するにあたり立地にもこだわっています。最初は公営住宅の建て替えで生まれた余剰地に建設されました。公営住宅では高齢化率が50%を超えており、多くの介護ニーズがあります。ニーズが高いところに建てるという市場原理に基づき計画しています。次のサテライト型施設である「ケアタウンかみうち」は新幹線の駅前に建設しており、本体施設の移転は在来線の駅近に建設しています。大牟田市のような人口が減少していく地方都市では、立地の適正化を図っていく必要があります。天光園では、利用者や職員のアクセス性を考え、便利なところを探して建設してきました。
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