講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』



3.最後に


趣味としてのDIYの面白さ
以前このHP企画で大久保恭子さんにマンションの商品企画の話を伺ったことがある。その中で今でも記憶に残っているのは、稽古事と生活、住まいの関係についての話だ。

例えば、英会話を習うと自分の会話能力を試したくなって海外旅行に行く。料理を習うと、家に人を呼んで腕を振るってみたくなる。楽器を習うと、家に訪ねてきた人の前で披露したくなる。英会話−海外旅行の関係は別として、余暇時間が増え稽古事がはやると、住まいの中にその成果披露の場が必要になってくるという主旨の話だった。

さて、今回DIYの取材をして、無精者の私にも、その余暇時間を使った趣味としての現実味がよく理解できた。私自身にやる気があるかどうかは別として、なかなか興味深い趣味だ。

個人個人で相当な工夫の余地がある。サポートする道具も想像以上に発達している。企て、道具、汗、失敗、完成後のビール。「生」の実感と結び付き易いのも趣味としてはなかなかのものだ。そして、何より生産的だ。趣味によって自分の住まいの姿がどんどん変わっていくのだから面白い。

ただ、あまりにも生産的なので、家が広くないと折角磨いた腕を発揮する場がすぐになくなってしまう。自宅の庭や市民農園での食糧生産等と合わせ技にすれば丁度良いかもしれない。更に機織りまで手を伸ばせば、衣食住がカバーできる。趣味としては行き過ぎか?
(松村秀一)



ロバート・パーカーの探偵スペンサーのシリーズに「初秋」という作品がある。閉じこもりがちの少年にスペンサーが生きることを教えるストーリーで,二人して森の中に小屋をつくりあげることで少年が逞しく成長していく。自分の住むところは自分で造るというというアメリカの開拓者精神・文化が生きている証拠だろう。

さて,一頃に比べ日本でもDIYが一般的になってきたように感じる。NHKの講座も人気のようであるし,アメリカのような郊外の巨大なホームセンター,DIYセンターもあたり前の風景になってきた。我が国にDIY文化が根付いた様子をみたいというのが,今回の取材の発端だったのだが,結論からいうと,残念ながら(?)まだアメリカのような状況ではなく,ホームセンターの巨大化は,むしろプロやセミプロのための道具や資材が大きな要因のようであった。(カートリッジ式のかんなやノミの刃といった,道具の独特の不思議な発展は大げさにいえば住宅産業とそれに従事している人・組織の構造変化を反映しているのだろう)

とはいえ,普通の人がプロの使う道具を気軽に見て買うことができる場が増えてきたことはやはり大きな変化であるし,家族連れが,レンガや木材を選んでいる風景は確実に時代が変わりつつあることを実感させる。

馬渕さんのお宅を拝見すると,至るところで,生活の積み重ねの歴史を感じることができる。よい住環境というのは完璧で固定したものではなく,少しずつよい方向に変化していると認識できる状況であることが重要なのではないか。そしてそのためには,自分の手で徐々に住まいを好きなように変えていけるDIYは重要な役割を果たすだろう。
(鈴木毅)



馬渕さんの様なDIYerになると,水洗トイレの調子が悪くなったので自分で修理しましたという様なレベルではなく,まずDIYがあって,毎日がDIYであり,そのフィールド(活動対象)として自宅があるといってよい。このモノをつくりたい,部屋を自分の好みに改造したいという尽きることのない創造力を単なる「情熱的な趣味ですね」といって片づけていいのかはわからない。もっともこのような活動が持続できるのは,本人の情熱だけでなく,今回見たドイトのような施設とそこに置かれるプロ・アマを問うことなく,丁寧に使いやすく製品化された様々な道具類や部材という強力なバックアップ(品揃え)が非常に身近な環境に整備されており,日々進化を遂げているからである。

馬渕さんをはじめDIYerたちは行儀よく趣味の世界に収まっているので,他人アドバイスすることはあっても手を出すことはほとんどないそうだ。対象の中心はあくまでも自宅の敷地内である。ここが唯一といってよいプロとの垣根で,おそらくDIYerたちの暗黙のルールなのであろう。全国各地に多くいるであろうDIYerたちが,現在横ばい状態が続くDIY業界の活性化を担うことはもちろん,地域コミュニケーション活性化の主人公に躍り出ることを私は期待したい。たとえ賃貸マンションに住んでいても障子の張り替えぐらいのハウスメンテナンスは必ず発生する。そういう時に気心の知れたDIYerがいればこれほど心強いことはない。料理と同じで,DIYもやればほとんどの人ができるのだろうが,身近に教わる人がいないとなかなか上達しない。お金を払ってプロに教わることも悪くないが,普通の人にとってDIYは頻度が少ないだけに,必要が生じたときに直接自宅で指導を受けたいと思っているのは私だけではないと思う。
(西田徹)




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