講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』



・家族意識の変化 〜「個別同居型」から「個別別居型」の時代へ 〜
 「精神医療」という雑誌の特集で、家族をテーマにした座談会に出席したことがありましたが、その中で、ある精神病院に勤める看護婦の10%が非婚と35歳以降の晩婚、27%が離婚とシングルマザーだという話がありました。
「ついていく父親」という僕の著書の中で、現在の家族意識は「個別同居型」、そこからもっと先端的になると、「個別別居型」になるという提案を行いました。自分や周囲の人々の家族意識をベースに考えた時、どうやら家族意識が同居をほどき始めたという気がしてきました。そこで個別別居型という提案を行ったわけですが、実際そうした人はかなり多いようです。
たまに、「朝日カルチャー」で30人くらいの講座を行いますが、そのうち約8割が女性で、ほとんどが既婚者です。面白いのは、夫とは20日に1度顔を合わせるくらいがちょうどいいという意見を持つ女性が非常に多いことです。夫婦関係がうまくいっていないというわけではなく、同居しているけれども、別居感覚のほうがお互いのためによいという意識をもち始めているんですね。
もっと先端的なところでは、夫婦別のところに住んで、それぞれの生活をしているという夫婦も実際に出てきています。そうした人たちはごく少数ですが、家族意識のレベルで個別別居型の意識を持っている人たちは相当程度いるのではないかと思います。
僕の家も、始めは夫婦一体型でしたが、だんだん息苦しくなってきたので、お互いが自分の時間を持って好きなことやることで、息苦しさを緩和し、家族を維持させてきました。いずれにせよ、お互いの個別性という意識が家族の中に相当入り込んできた時代になったと思います。
このことを理解していないと、「長い間お世話になりました」という事態になってしまうと思います(笑)。実際、同居期間が15年や20年になる夫婦でも、3万件以上が離婚しています。また、その年代の人たちと話をすると、経済的な問題さえ片付ければ別れたいという人たちがかなりいます。男性のほうがそうした状況に鈍いような気がしますが、そういう意味で家族の中に個別化を組み込んでいけるかが、家族を生き延びさせるための重要な要素になってきていると思います。
離婚・シングルマザーを希望する女性は、配偶者はどうでもよいが、子供は自分で育てたいという考え方を持つ人々で、いきなり子供を産むことに関する議論をしたいという先程の若者たちの感覚も、そこにつながると分からなくもない気がします。つまり、個別性をベースに考えれば、いきなり子供を持つという議論もあり得るような時代に入ってきたように思います。
もう一つ驚いたのは、夫に先立たれた後に、一緒に暮らすための話し合いをしている女性が増えてきていることです。つまり、家族を開いてしまいたいという発想を持っているのです。
グループホームは、脱施設の考え方から出てきたもので、メンバーが主体となって構成されます。これまでの施設は、あくまで施設中心でしたが、グループホームでは、施設のメンバーの主体性を尊重しながら世話人とともに暮らしていくという構成が核になります。これからの時代は、世話人を意識的に養成しなければならなくなると思っています。世話人は、メンバーを管理するのではなく、あくまでメンバーの主体性をしっかりと認めつつ、不足している部分をカバーしていく能力が必要です。また、メンバーが集う居間の雰囲気を作る人も世話人です。そういう意味で、痴呆症のお年寄りが施設からグループホームへ移ると、確実に元気になります。グループホームの存在も知らないのに、そうしたことを既に考えていることに驚きました。家族から脱家族、施設から脱施設へ自然にイメージが描かれ始めていると言えます。
30代半ばで既にそのような感覚を持っている女性がいます。つまり、そうした感覚が30代の人にも既に共有されているということに、現代の家族意識の先端的な部分があると思います。つまり、夫婦対で閉じるのが非常に難しくなってきたと思います。グループホームでは、それぞれがシングルで、血縁を越えて共に暮らすわけですが、個別性が尊重されて初めて集団の生活が自然に作り上げられるという展開になってきています。
脱家族化が進むと、個別化に耐えられている間は、シングルは快適だと思えますが、年をとるほど孤立化するという不安が大きくなってくるはずです。そうなった時に、個が尊重されつつ、共に暮らすという世界が出来ればいいのではないでしょうか。そういう意味で、グループホームというイメージを核にしたところへ、社会が確実に向かい始めている気がします。


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