家の未来形−地域に貢献する私邸
これには驚きました。カッコイイ新築のお風呂屋さん。熊本で新築のお風呂屋さんは過去20年以上なかったらしいです。全国でも珍しいでしょう。しかもこのお風呂屋さんは、家業を継いで建替えたとかそういうのではなく、全くの新規開業。自宅の新築の際に、1階を風呂屋にすることを思い付いたというのですから、驚く以外にありません。
また、その思い付いた理由というのにも驚かされました。今から5年前、2016年の熊本地震の折に被災し、一番長く難儀したものの一つが風呂だったから、いざという時に地域の役に立てるというのが元々の発想だったというのです。そして実際、今は平時ですが、地元の人が「ありがとう」と言ってやってくる場所になっているのです、自宅の1階が。もちろん自宅の1階でお店をしている例はいくらもあるでしょうし、自宅の一部を地域の人に開いているとか、そういう例も増えてきているとは聞きますが、いざという時に地域の役に立つという、そういうパブリック・マインドで家の半分近くをその用にあてている、この黒岩さんのお宅のような例は、「寡聞にして」かもしれませんが、知りません。
戦前や江戸時代の地域と家の関係はそうだったのかもしれませんが、還暦を超えた私には、これまでの60年間、地域と家の関係はもっと閉じられたものになり、公私は明確に分けられる方向で動いてきたという実感があります。その時代感覚が、黒岩さんちの1階の風呂屋さんによって見事にひっくり返されました。まさか生きている間に、こんな家の未来形を見ることができるとは。今回はいいものを見せて頂きました。
(松村秀一)
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