「ゆるさ」のデザイン
10月初旬の土曜日。心地良い昼時の谷中。根津、千駄木と合わせて「谷根千」等とも呼ばれるこのあたりは、空襲に合わなかったために、古い木造家屋や下町風の路地もあり、かつての東京の風情を感じさせてくれる。久しぶりに日暮里の駅から歩いてみると、狭い歩道をすれ違うのがやっとという程に人がいて、少々驚いた。写真を撮る外国の方も多かった。
宮崎さんの手がけたHAGISOも、木造住宅をリノベーションした宿も、表通りに面したビルの2階の自身の事務所も、そして経営に参加しているハンバーガー屋さんも、すべてこのまちの歩いて回れる範囲にある。実際宮崎さんの案内で歩いてそれらを回ったが、宮崎さんは、時折道ですれ違うまちの人と挨拶を交わしていた。この全体−歩くことも、リノベーションした建物の道に面した様子も、その内部空間も、そこで活動する店員さんや所員さんたちの振舞いも、道でかわすまちの人との挨拶も−の質感を一言で表すと「リラックス」、外来語でない言葉を探せば「ゆるさ」ということになると思う。
HAGISOではカフェ、ギャラリー、宿のフロントといった空間+活動が、隔てられていることを意識させないようにゆるくデザインされている。木賃の萩荘だった時代のモノと、リノベーションで新たに付け加えられたモノとが、境界を際立たせることなく、ゆるく一体になっている。宮崎さんの事務所に行ってみると、先ずは地域の交流スペースがあり、その奥に設計事務所のスペースがあるのだが、視覚的に繋がっている。私たちがお邪魔した時には、子供のための学びの場が運営されていた。地域と設計事務所の間にもゆるい関係がデザインされ、成立している。
東京オリンピックに向けた開発熱で、ツルツルピカピカの空間がどしどし供給され、それらが排除していくことになるであろう生活空間の「ゆるさ」。既存のまちに新しい活動を埋め込むリノベーションまちづくりの営みは、ツルツルピカピカにはないこの「ゆるさ」を空間化しているのだ。今回の取材では、宮崎さんの東京・谷中とその周辺での活動が、そのことを明確に意識させてくれた。
(松村秀一)
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