講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.ポストデザインの重要性
鈴木:  環境共生住宅に20年余り取り組んできた岩村さんから見て、その成果や問題点をまとめるとどうなりますか?
岩村:  「環境共生」という言葉だけは随分普及したように思いますし、これを枕詞にした事例も戸建住宅から集合、団地、都市レベルへと、新築を中心に様々な取り組みが具体化しました。その客観的な評価についても仕組みが整備され、先行してつくられた環境共生住宅の認定制度の評価システムが、CASBEEに結実したことは大きな成果だったと思います。しかし、近年はCO2排出削減が主要な政策課題として重要視されてきましたから、本来エコロジーやライフスタイルを含めて総合的な視点がややあいまいになってきたきらいがあります。さらに、さきほど触れたように、環境を巡るテーマと昨年の3.11以降の災害との関係は、新たにつきつけられた課題として枠組みの再整理が迫られていると思います。これらの課題とともに、より広範囲な普及を図るには、倫理的な動機に加えて個人・企業・行政のそれぞれのレベルでの便益を明らかにしながら、市場における経済原理にも叶う側面も明らかにしていく必要があるでしょう。最近、その動きが出てきました。

さらに、20年も経つとこれまで試行的に作られてきた初期の事例が、経年変化を受けながら実態評価として事後検証ができる段階に入っています。特に、導入された様々な環境共生の取り組みがどのような効果を上げ、維持管理されてきたのかを知ることは、今後の展開を考える上で極めて重要です。世田谷の例のように、公営住宅などでは20年も経つと当然管理担当者が何度となく変わっていますから、当初の思い入れは受け継がれていません。計画・設計者側も計画段階で管理のあり方やプログラムを策定しますが、それでも事後の対応には限界があります。従って、住み手の側に持続的な取り組みができる仕組みづくりが必要であることは言うまでもありません。私は以上を「ポストデザイン」と呼んでいますが、ライフスタイルと大きく関わるこの作業を通じて、私達も大変多くのことを学べます。私の研究室での体験からも、大学で学ぶ学生にとって、そうした現場に触れることが、建築のデザインの現実と社会との関わりに目覚める良い機会となっています。



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