講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.ドイツでの設計同人の開設と「バウビオロギー」
岩村:  キャンディリス事務所では中近東の都市開発プロジェクトを担当しましたが、その機会を通してドイツ人の仲間と知り合い、70年代後半には彼らが建築を学んだドイツ、ダルムシュタットに建築・都市設計同人を共に開くことになりました。オイルショックを経た当時のドイツ建築界では「バウビオロギー(建築生物学)」の動きが活発化し始めていました。仲間の一人だったフランツ・フォルハ−トはその影響を強く受け、「環境に配慮した建築」のあり方として、軽量粘土構法* によるセルフビルド的な住宅づくりに取り組んでいました。この粘土を用いた構法については、南アメリカやインドなどの伝統構法と融合させたカッセル大学のゲルノート・ミンケ教授の旺盛な取り組みもあります。彼は後に私達がコーポラテイブでカッセルに作ったエコロジー団地の中に、北米インディアンのホーガン構法と組み合わせた自邸を建てています。

* 木造軸組の間に設けた型枠に粘土を充填する構法。ヘッセン地方の伝統的な粘土構法をもとに1920年代に開発され、1944年にはDIN規格を織り込んだ施行令の細則が整備された(参照:建築環境論)

地域の伝統的な文化や生活が色濃く残るドイツでは、日本と同様主要都市が戦争で壊滅的な被害を蒙ったものの、戦前から土着的な建築技術の見直しや環境に配慮した住まい・住まい方の継承がなされてきました。「バウビオロギー」とはそうした草の根の動きにフラーやアメリカ西海岸のヒッピームーブメントの影響等が重なり、ドイツ的な体系化がなされたものだと言えるでしょう。

またドイツにおける建築教育のあり方も見逃せません。建築躯体の性能を構造・構法・材料の三位一体で解き明かす「バウフィジック(建築物理学)」という科目が大学の建築学科で開講されていて、例えば断熱の課題もそうした枠組みのなかで教育されます。ですから、建築の断熱性能を構造設計者が計算することもよくあるそうです。ただし、今日のテーマであるライフスタイルに関しては、それと環境デザインを結びつけて論じるカリキュラムはあまり見当たりません。



前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP