講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


11.まとめ


「箱」の産業から「場」の産業へ
このところ、私自身は機会があればこう言っています。住関連産業は、今までは住宅という「箱」の質を高めて魅力的にすることに総力を上げ、その「箱」を年間にいくつ造り、いくつ売るかに血道をあげてきました。言ってみれば「箱」の産業であり続けてきた訳です。まあこれまでの半世紀はそれで良かったのです。ところが、空き家が約700万戸にも及び、人口減少・少子高齢化という現象が顕著になりつつある今は、正にその産業のあり方を根本から見直すべき時期なのです。そして、住宅が余るこれからの時代は、箱だけではなく生活の場全体を、どのようにしてそれぞれの個人にとって豊かに仕立て上げられるか、提供できるかが問われる時代になります。即ち「箱」の産業から「場」の産業に大変身することこそが住関連産業の生きる道であり、期待される道なのですと。

今回の座談会では、既に住宅メーカー各社が「場」の産業への変身に動き始めていることが実感できました。しかしながら、それはまだまだ「箱」の豊かさの一つとしての「場」への着目にしか過ぎません。まあ、産業の大変身はそんなにきっぱりとやってのけられることではないですから、焦っても仕方ないのですが、今回お聞きした新しい動きが「箱」からはみ出してしまうような産業活動にどんどん繋がればなあと思います。ささやかながら「ライフスタイルとすまい」と題してこのサイトを運営してきた私たちの本来の狙いの一つはそこにこそありますので。

(松村秀一)



お話を伺って,プレハブメーカー各社で実に様々な工夫や試みが行なわれていることがわかり勉強になった。メーカーごとのアプローチの違いや,子ども,子育て(子育ち)など共通に注目しているテーマがあることもわかった。

ライフスタイルに対する「商品モデルというよりインフィルで対応する」「潜在的ニーズを引き出せればよい」「お客様が建てたものを調査すればニーズを引き出せる」といった姿勢も真っ当な方向性だと思えた。

印象に残ったのは,子育て向けの住宅に「たまひよ」のベネッセが関わったら大反響だったという話である。子どもの空間について提案し続けてきた建築家や研究者達はちょっとがっくりしてしまいそうな話だ。

そういえば,皆さんが興味をもたれたゲストハウスのひつじ不動産も,コミュニティの価値をさんざん主張し提案してきた建築関係者を尻目に,軽々と新しい関係性の住居タイプを確立してしまっている。東京R不動産もそうだが,その対象のことを本当に真剣に考え,情報収集提供している主体に対する信頼感(ブランド)というのは予想以上に重要なのかもしれない。

また,東京R不動産,ひつじ不動産ともにウェブのマッチングシステム抜きには考えられない。住宅の場合,それほどマスでなくてもよいという話を考えると,ある人々に確実に信頼してもらえるブランド+ウェブの組み合わせで,もっといろいろ可能性がありそうである。

非常に面白い時代になってきたと興奮する反面,いわゆる建築畑で育った人間にとっては難しい時代になってきたのかもしれないとも思う。

(鈴木毅)



冠婚葬祭を含め,全てが住居を中心に動いていた時代とは異なり,住機能のほとんど全てが外部化してしまった現在,ハウスに求められる機能は,風呂とトイレと寝室だけである。この三つの中でもどうしても必要なのは,寝室,つまり寝床スペースのみで,あとは共同でも何でもいい。だから,ひつじ不動産のようなニッチビジネスが成立する。但し,子育て世代の家族の場合は,そういう訳にはいかない。キッチンやリビングなど,もう少しだけ機能の追加が必要となろう。しかし,近年の晩婚化・少子化で,その様な需要の拡大はもはや期待できない。そうなると,ハウスメーカーは様々なライフプランの提示を余儀なくされる。でも,実際のところ,各社どれを見ても申し訳ないが何の魅力も感じられない。消費者の冷え切った心はそんなものでは動かない。それは,例えば,現在の国産車に魅力が全く感じられないのと共通している。いらない機能が付加されている高級車は必要なく,燃費と価格に見合った性能だけが保証されていれば充分。つまり,UDや環境性能をうたった車と軽自動車・ワンボックスカーだけが売れる夢のない時代に入ってしまったという訳である。しかし,私はそんな時代をもの凄くつまらないと感じる。夢も希望もない。モチベーションも上がらない。私の勝手な願望をいわせていただくと,老若男女全ての人が生き生きと未来を語れる住まいと生活スタイル(QOL)の実現に向けて,ハウスメーカーは目先の利益を上げることに終始せず,国民の生活を全力でサポートできる体力を持つため,政治・経済と別の次元での構造的変革に取りかかる必要性を感じた。なぜなら,生活者のために動けるもっとも身近なポジションにハウスメーカ各社はいる訳だから

(西田徹)




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