講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.東京R不動産とひつじ不動産にみる新たなマッチング・サービス
松本:  その一方で二世帯住宅を中古で売りに出すと、なかなか成約しないという問題もありまして…。
中村:  確かに二世帯住宅を中古で出すと値段がつきにくいですよね。
松本:  二世帯へーベルハウスのストック専用ウェブサイトがあるんですけど、販売希望数と購入希望数はあまり変わらない。ただ値段が高すぎるとか、間取りなどの条件が合わないとか、マッチングを探すのが難しい。先ほど賃貸併用住宅が話題に出ましたが、一つの建物が複合的になるほどマッチング探しが難しくなる気がします。
松村:  それこそ東京R不動産にお願いしてみるとか?
松本:  確かに東京R不動産はそういう手があったのかって思いましたね。
ちなみに、片方が空いてしまった二世帯住宅を、居住者はさぞかし持て余していると思われるかもしれませんが、そうでもないんです。家が広ければ広いほど楽しく使っている人もけっこういるので、使い方を広げて行く方向性もあるんじゃないかと最近は思っています。
松村:  余っている部屋を使って?
松本:  ええ。LDKと各人の個室があればいいと考えると、単に部屋が余るということになってしまう。でも、自分の部屋が2つも3つもありますという住み方が現実には起こっていて、そういう世界を紹介していけたらと最近考えています。そのようなライフスタイル別に住空間を考えるようになると、マッチングをどうするかが大きな問題になると思います。
松村:  マッチングはすごく重要ですね。20年ほど前に中古マンションを買いに出かけときに痛感しました。当時住んでいた団地にコーポラティブのように造り込んだ公団物件があって、見に行ったんです。確かによく考えられていて内装のグレードも通常の公団仕様よりずっといい。僕らの希望と違っていたので見送りましたが、ピタッとくる人はいそうだし、その場合は高い値付けで売れそうな物件でした。でも流通上では「公団の築○○年のnLDK」という情報だけになってしまう。つまり、住宅情報誌一行分の情報しかないので、効果的なマッチングが成立するはずがない。
鈴木:  その点では、東京R不動産もひつじ不動産もすごく写真が多いでしょう。あれだけでもユーザーから見れば今までになかったサービスですよね。
松村:  それにこれらはあるブランド力を持ち始めている。ゲストハウスだったらひつじ不動産に載っているものは間違いないという評価が定まりつつある。実際、ひつじ不動産の北川さんも言っていましたよね。全物件を自分たちで撮影しているし、見に行って自分たちのゲストハウスの定義に合わない物件は載せていないって。東京R不動産にしても、もともと馬場さんが勝手にブログに書いていたことの延長線上に展開しているから、ある種の評価眼や批評力がそこには備わっている。
中村:  私もマンションを売ったことがありますが、自分の家の特徴をいくら説明しても、不動産の仲介業にとってはそんなことは問題じゃなくて、築年数と規模で金額が決まってしまう。住宅情報誌だけでなく、仲介業そのものが中古住宅のマッチング機能を持っていない。
松本:  流通する中古住宅のほとんどがnLDK型だったこともそうした風潮を助長したんでしょうね。その中で、マッチングが必要なものは売りにくい物件と見なすことが当たり前になってしまった。その典型が賃貸併用住宅でしょうね。
鈴木:  でもR不動産だって既存ルートだったら流通しないものばかりでしょう。大きくはないけれど、それらがちゃんとビジネスになってきている。
松村:  第6回で紹介した濱恵介さんの家の見つけ方がそれに近い感じですね。東京に住んでいた濱さん御夫婦が、奥さんの故郷の奈良に住むことを決意するんですよね。さんざん歩き回っているうちに濱さんがイメージしていたRC造の空き家を見つけて、薪ストーブなどを入れたエコ住宅に再生して住んでいる。ああいう努力をする人が増えると、既存ルートでは扱いきれないニーズが顕在化して、マッチング・サービス型の中古住宅流通が活発になる可能性が出てくるんでしょうね。
中村:  大阪のアートアンドクラフトの中谷さんは、不動産とリノベーションをセットにしてそうした仕事をしていますね。



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