講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


12.まとめ


歴史の上に立つ今のライフスタイル
今回、勝裕子さんが紹介してくれたデンマークの都市内農園「コロニー・ガーデン」とそこに暮らす人々。首都コペンハーゲンの中心から自転車で15分というようなところで、特に裕福だという訳でもない普通の人々が、こんなにのびやかに暮らすことができている事実。写真を見ているだけでも楽しい。日本でもこんな暮らしができればなあ、と思う人も多いと思う。

ただ、勝さんが明らかにしてくれたように、「コロニー・ガーデン」という場所とそこでの暮らし自体、昨日今日できたものではない。数百年前から徐々に形を変え、デンマークの人々に受入れられ、都市内に位置付いてきた歴史があるのだ。今暮らしている個人個人を見ても、親の代から同じガーデンを使っている人がいる。この歴史の厚みの上に、今の羨ましくなるようなのびやかさがあるのだと思う。

遠い国の豊かさをそのまま参考にするのも良いかもしれないが、他方で私たちの歴史の中に将来の豊かさに繋がる何かを見出し、その中の大切なものを育てていくことが求められているように感じた。

(松村秀一)



コロニーガーデンのことは今回初めて知った。都心のアパートから自転車で通えるところに,自然を楽しむことができる生活の場があるというのはうらやましい限りであり,都市住居を補完するものとして非常に興味深い。紹介していただいたコロニーガーデンと人々の生活は,それぞれに個性的で魅力にあふれている。勝さんが各々のコロニーガーデンのお宅を再訪する良質のテレビドキュメンタリー番組がすぐにでもオンエアできそうである。

さらにコロニーガーデンが,19世紀以前からのデンマークの歴史の中で労働者運動の中で獲得され展開されてきたということもまた驚きであった。というより何故こうした興味深い歴史が,これまで日本でほとんど知られていなかったのだろうと考えさせられた。

本シリーズ「ライフスタイルをみる視点」も気がついてみると19回目である。回を重ねてくると,前にも同じようなことを感じたなというのが出てくる。前回の当別田園住宅プロジェクトの時も第6回の濱恵介さんの言葉を思い出した。今回も,中野不二男さんに各国のDIYの様子をうかがった時に,外国の生活に関わる情報で伝わっていないものはまだまだあると感じたことを思い出した。

近代国家建設のために,まず制度・インフラ・技術・産業を輸入した日本の場合(映画「長州ファイブ」で描かれる世界),どうしても,生活環境についての情報・生活世界をどう組み立てるかという思考は後回しになったのではないか。

(鈴木毅)



今回勝さんに紹介してもらった定住型のコロニーガーデンは,現時点で私にとっての理想の住まいとぴったり一致する。どのあたりが理想かというと,まず,都心に近い立地であること。次に,土地を安く借りて,コンパクトな家を購入する点。そして,何よりも広い庭があるということ。お風呂とトイレとキッチンさえあれば,部屋数は二つで十分で,それよりも太陽と暮らす広い庭が欲しい。セカンドハウスとして持つには贅沢すぎて,本宅にするには少しワイルドな住まいといったところである。

この様な住まいに憧れる経緯には,持ち物を少なく,日々丁寧に暮らしたいという想いがある。家が小さければ,必然的に家財道具や光熱費も少なくてすむ。広い庭があれば,野菜や草花を育てることができて日々豊かな気分になれる。都心に近ければ自転車で通勤ができ,ストレスも少ない。別に今流行のエコライフやスローライフがしたい訳ではない。そういう生活を送るには,ワークスタイルから根本的に変えていく必要がある。そんな勇気はない。あくまでも現状の仕事や生活を維持しながら,少しだけ野生の暮らしに戻りたいということである。デンマークでは普通に叶うのだからうらやましい限りである。

(西田徹)




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