郊外住宅地再生フォーラム2022
暮らしを豊かにするプロジェクトデザインとマネジメント


小泉教授:日本での人口集中地区 (DID) の人口密度は40人/ha以上とされていますが、アメリカの郊外住宅地では10〜20人/haでうまくマネジメントできているところがたくさんあります。もちろん車型社会といった日本との相違点がありますが、密度が低くなるとマネジメントが難しくなるということではないと思います。どういう人がそこに暮らしているということとセットで考えることが大事で、高齢者ばかりのまちになるとマネジメントが難しくなり、李先生の言われたような多様性が無ければ、低密度でのマネジメントは難しいと考えられます。
藤垣特任助教:近隣センターのニーズが、郊外住宅地のこれから変わる点と考えています。モータリゼーションの発達の中で、近隣センターの需要は低下する傾向がありました。しかし高齢化やテレワークの増加により、近場の商業・サービスの需要は増えるのではないかと考えられます。今後、交通サービスを高めることが重要となりますが、それに加えて、病院施設などが一定の近さのところに立地するための制度設計も必要になります。都市計画上の制度設計と交通サービスを組合わせて議論することが必要と考えられます。
小泉教授:阿部様からはインフラについてのお話がありました。財政的な制約が大きい中で、郊外住宅地でのインフラの維持管理や再生をどうすればよいかという質問がZoomウェビナーでの参加者から寄せられています。もし何かヒントがあれば教えていただけますでしょうか。
阿部氏:一定の人口密度を切り、集合的なインフラ利用に適さなくなる地区も出てくると思いますが、本日ご紹介いただいたような地区であれば、既存のインフラを長く大事に使っていくことが重要になってくると考えられます。例えば台所の生ごみをディスポーザーで回収するといった、インフラ利用のソフト的な工夫で、インフラ管理の費用を確保するということがあると考えられます。
小泉教授:最後にパネルディスカッションに参加いただいた先生方から、感想などを伺いたいと思います。
室田教授:本日は郊外住宅地の様々な問題が提示されました。その対処をだれがどのような形で行うかが、解いていかなければならない課題となります。どの地区でも自治会町内会の役割が大きいのですが、自治会町内会が義務的に活動している地区も多く、本日ご紹介いただいた活動を始めることが難しくなっています。得意な活動や好きな活動に取組む方々に対して、継続性のマネジメントが必要か、あるいはその時その時の活動でよいのかを検証することがマネジメントの課題と考えています。
高見准教授:藤垣先生が述べられたように施設立地と交通サービスを一体に制度的に考えることが重要です。交通だけで実現しないことがあり、土地利用と一緒に考えることがポイントになります。自動運転の時代が来ると考えられますが、郊外住宅地のモビリティの問題は、自動運転である程度解決するかもしれません。一方で地域モビリティの問題は現在生じているものであり、地域毎に、様々な体制と方法で問題対処が進められることを期待しています。
樋野教授:大月先生のお話がとても印象に残っています。気軽に一緒にやることができるまちが大事と考えています。大月先生の述べられた、人材と活動の蓄積が大事ということにも共感しています。ただ、それがまちの存続につながるためには、もう一つジャンプが必要と考えられます。危機感を煽って、地区が滅んだときは住民の責任ですよとすることは、違うと思います。これから議論したいところです。
阿部氏:地域の中でプラン的な活動を行うという、いわば公的な役割を担う方々に、行政がどのような支援ができるかについて考えていきたいと思います。
園田氏:危機に直面すると人は本気になり、危機が再生のきっかけになると考えられます。介護や看取りは解決しなければならない危機です。さらに樋野先生が述べられた“売電”はエネルギーの危機への対処です。防災も逃れられない危機です。そこをどうするか。山根様が述べられた緑のこと、阿部様が述べられたインフラに関することも危機に関連します。それらの危機に対して、皆が大変だと思った時に反転攻勢が始まるのではないかと、本日のパネルディスカッションを通して考えました。
大月教授:少し違う観点から危機について述べたいと思います。今の若者がなぜ結婚しないのか、子どもを産まないのかという理由として、あらゆる責任が“家族”に負わされているという日本全体の問題があると考えています。社会学者の中には家族主義が家族崩壊につながっていると指摘される方がいます。高齢化の問題や子育ての問題を、“家族”だけに押し付けるのではなく、まちづくりのプロセスの中で、地域の余裕のある大人たちがボランティアとしてあたることが必要と考えています。郊外住宅地には余裕のある大人がたくさんおられます。
小泉教授:郊外住宅地には様々な可能性があります。太陽光発電や緑の存在価値は、社会の中で大きな力はまだ占めていませんが、10から20年後には意味を持ち始める可能性のある領域です。郊外住宅地はその可能性がとても豊かです。インフラについても、利用方法を変えることで、維持管理コストが大きく変わる可能性があります。本日のパネルディスカッションで様々な可能性が見えてまいりました。その可能性をどのように社会で実装をするかのハードルについては、法制度の設計で考える必要があると考えられますが、社会全体の中で後押しする必要もあるかと考えています。また、子世代・孫世代が住みたいまちとは何かという問いにどう答えるかという課題もあります。以前にアンケート調査を行ったのですが、親世代は子世代が地域に戻ってくることを期待していますが、子世代にはその考えはないという、世代間のギャップが顕わになる結果となりました。そうすると第1世代の直接の子どもではなくても、子どもや孫と同じ世代の人間が住みたくなるまちについて考えることが必要かなと考えられます。“孤化した”と私はよく言うのですが、一人ひとりの責任で生きていくという個人主義的な地域社会では、子育てや高齢化など様々な人生のステップの中で、生まれたところは死ぬところとなることは無理と考えられます。その観点から、郊外住宅地には、他の地域に比べて、アドバンテージがあると考えられます。郊外住宅地の価値を哲学的・理論的に再評価することが重要と本日のパネルディスカッションで気づきました。本日はありがとうございました。


以上