郊外住宅地再生フォーラム2022
暮らしを豊かにするプロジェクトデザインとマネジメント


(2) 各パネラーからの問題提起

小泉教授:まず、我々の活動にご協力いただいている先生方から、問題意識の発議をしていただきたいと思います。
室田教授:郊外住まい手のニーズ変化として、①高齢化対応、②子育て世代の受け皿、③テレワーク定着の受け皿の3点が重要と考えています。①について、バリアフリーのできていない家に住んでいる高齢者は、介護が必要になってから老人ホームなどに移り住むという状況のようです。郊外の住宅が多様化して、老人ホームと自宅の中間的なものがあり、住み替えリスクが軽減化されれば、健康に暮らせる期間が長くなるのではと考えられます。②について、これまでの郊外住宅地を共働き世帯が前提になっていない面があり、多忙な共働き宅の緑管理の共同化や、生活利便性確保が持続可能な郊外住宅地になるために必要ではないかと考えられます。③について、テレワークでは働く場だけではなく、気分転換の場やセカンドプレイスが郊外住宅地に移ってきます。郊外住宅地に働きやすい場所としての機能が追加されることがキーになると考えられます。
 ニーズ変化を踏まえた課題とプロジェクトとして、①生活サービスや多様な住宅の特定エリアでの立地、②公園や緑の共同管理システム、③庭の共同管理・オープンガーデン化システム、④多様な地域生活サービス提供システム、⑤住み替え支援が考えられます。②③について、郊外の公共施設の荒廃化も進んでおり、横浜市には公園愛護会などの仕組みがありますが、地域の豊かな緑を地域で共同管理することを考える必要があると思われます。オープンガーデンのような取組みをやりたいという元気な高齢者は郊外におられます。④について、用途規制を緩和するだけで立地できるものではなく、地域の人材やNPOなどの団体がいかに機能導入を支えていくか。そのためのプロジェクトやマネジメントシステムの発展が重要と考えられます。
高見准教授:私からは地域モビリティの計画とマネジメントについてお話します。郊外住宅地では、人口減少・高齢化・地域活力低下と相まって、既存公共交通の利用減少と運転手不足により、公共交通の廃止・減便、モビリティ低下の問題が発生しています。多様な移動手段による便利で低廉な移動を可能にすることが郊外住宅地の持続に極めて大切で、都市交通の目標となります。地域の実情は様々で、目標の実現と持続のための万能薬は無いと思いますが、基本は地域ニーズに沿った利便性の高い移動サービス・体系を設計・実現することで利用者を増やし、事業として採算のとれるようになることが最も望ましいと考えられます。しかし現実的にはそれが難しい地域が多く、収益の多角化、異業種の連携、運行の委託、費用補助で事業立ち上げと継続を支援することが必要です。そして事業採算がとれない状況では、待っているだけではだれも事業化を進めようとはしません。そのため、地域が主体的に関与することが極めて重要となります。つまり、コミュニティの中でお出かけの機会を創出して、「乗って支える」ということや、地域の協賛金・負担金、運転ボランティア、地域がモビリティの計画・計画に関わるといったことが、これまで以上に求められています。
 利便性の高い移動サービス・体系を様々な制約の中でうまく設計することには高度な専門性が必要です。移動サービスを提供する様々な事業者間の利害を調整して、合意をとりつけ、サービスとして結実させることは簡単ではありません。また、地域が主体的に動くことの難しさも考えられます。地域のどなたかが汗をかいてサービスを立ち上げたとしても、それが個人の能力によるものでは持続しません。冒頭に申し上げた目標の実現には様々なハードルがあると考えられます。
樋野教授:私からは千葉県習志野市の「奏の杜 (かなでのもり)」のお話をしたいと思います。ここは元々、JR津田沼駅南側近くの35haの農地で、区画整理事業が行われたのですが、区画整理で地権者や事業者の方々が力を入れていたことは、景観・環境・防犯の3つでした。私は15年前からこの地区に防犯の専門家として関わっていました。防犯については、①道路や公園 (犯罪や事故の起こりづらい基盤の整備)、②各敷地・建物 (防犯環境設計マニュアルの作成)、③住民活動 (ソフト面:防犯まちづくり活動計画の作成) を三本柱としていました。この三本柱の取組みを、エリマネ (エリアマネジメント) 組織が支えるという仕組みで、地区人口が増える前から進めていました。
 エリマネ組織「奏の杜パートナーズ」は2011年に、区画整理組合を引き継ぐ形でつくられ、現在、居住者世帯の約6割 (1,800/3,000世帯) と、土地所有者、事業者で構成されています。戸建て住宅と比べて、マンション居住世帯の加入が低いとのことです。予算規模は1,800万円/年 (会費、集会所賃貸、売電収入等) です。売電収入は、集会所の上の太陽光パネル設置によるものです。自治会との棲み分けですが、自治会はマイナスをゼロにする課題対応を行い、エリマネ組織は快適で豊かな暮らしをつくる、プラスを生み出す活動を行うと、地元に説明しているとのことです。エリマネ組織は現在、道路・公園については歩専道の美化業務受託や防犯カメラ維持管理、各敷地・建物については景観形成ガイドラインに基づく届け出確認、住民活動については見守りガーデニング (家の前のプランターづくりで地域を見守る) やスマートペットPJ (犬の散歩で地域を見守る) といった活動を進めています。地区公園に犬の糞が落ちているなどから、地区公園を犬の散歩に使うことができなくなるのではという危機感共有から、ワンワンパトロールの形で犬の散歩でまちの防犯に貢献し、自分の犬だけではなく他の犬の落とし物なども処分する取組みへ発展したとのことです。歩専道の美化やスマートペットPJはエリマネ組織が元々仕掛けたものなのですが、現在は住民が自発的に楽しんで進める活動に発展しているとのことです。
 郊外の持続性には、人口が減ってまちの存続が危ういという危機感を地域で共有できるかがポイントになりますが、自分の代だけで暮らせればいいという考えの方も多いという点に難しさがあります。これからの方向性としては、やりたい人がやりたいことをできること、やりたくない人には迷惑をかけないように進められることが大事かなと、郊外住宅地に関わってきて、感じるところです。