少子高齢社会のまちの持続と再生に向けて

−協働的リノベーションが必要−

まちぐるみの協働的リノベーションが必要

 このプロジェクトを通じて分かったことは、街と住まいを持続再生するには、“再投資”が必要だという厳然たる事実である。先に20世紀の家寿命の想定は20〜30年と述べたが、日本住宅公団が分譲したような住戸・建物の場合、その躯体やインフラ部分の寿命はそれほど短くは尽きない。ただ、その見かけや、経年劣化する部分の補修や改修が十分でないゆえに、市場では、築年の新しいものや、見てくれだけよい民間住宅に負けてしまう。土地の広さや児童遊園の整備など、住環境としては何倍も優れているのにクタビレた感じが、需要者を遠ざけている。(図4_)


fig4

 そこで、次に考えたのは、その再投資を行う“主体”、あるいは“資金の出し手”がいないのだろうかという点である。一緒にプロジェクトを進めているメンバーで知恵を絞った結果、答えらしきものがついに見つかった。それは、その街に住む地域住民自身がその資金の出し手、再投資を行う主体になるということである。
 そもそも、分譲住宅の場合、住宅管理組合は躯体と土地を共有するという運命共同体組織である。その意味ではコミュニティの最小単位ともいえる。そこに降りかかる様々な諸課題・諸問題を、所有者間が相互の利害関係を調整して、良質な住宅建物と生活環境を維持・向上していくことが本来の使命である。したがって、自分たちの住宅団地がくたびれてきたなら、それが元気になるための再投資を行う必然性は大いにある。そうしなければ、自分たちの建物資産はくずになり、評価額の下がった土地だけが残る。高経年し多少くたびれた住宅団地や住宅地は住民が再投資というリスクを取る必要がある。
 区分所有者一人ずつは、ミニ資本、ミニ資金しか有していないが、それを集約すれば、ある程度の資本になる。また、当該団地だけでなく周辺地域の住民も出資者に加えれば、さらに大きな資本になる。
 そこで、例えば、それを元手に「地域事業会社」的なものを設立し、地域価値向上事業を実施してはどうか。親から団地住戸を相続したが、その運用に窮する区分所有者に初期のリノベ費用を融資して、遊休化の縛りを解く。また、団地全体で力を合わせて住環境の向上に努めれば、賃料アップ、再販の場合の価格向上も期待できる。そうなれば、
リノベ融資も早期に回収でき、利回りも期待できるかもしれない。自分たちの資産価値が増すのだ。これには、自治体も出資・支援する意義はある。地域価値が向上すれば、確実な税収が見込め、稼働所得の多い若年人口を呼び込めれば、一石二鳥どころか三鳥にもなる。好循環の創出である。(図5_)
fig5 

  さらには、地域での継続的な居住を希望する高齢者に対しては、高齢者住宅や介護施設等を皆で出資した資金を元手に整備をする。現下の高齢者住宅や施設に低質なものが多い理由は、建物建設の出資目的が相続税対策であったり、株主への利益還元であったりして、そこに住む高齢者の居住継続や生活支援を第一義にしていないからである。お金の動きが、本来の目的と合っていないと変なことが起きる。年金資金をケイマン諸島に投資するより、地域の良質な高齢者住宅や子育て環境に投資する方がより確実なリターンが得られのではないか。
 (仮称)地域事業会社を核にした、いわば、地域版の財政投融資システムをつくり、それによって、「まちぐるみ」の協働的なリノベーションを行うことを提案したい。7_0_年も平和が続いた我が国は少子高齢社会を迎えて、街も人も少々くたびれている。しかし、ここで皆が持てる力やお金を出し合って、協働的なリノベ―ションを始めたらどうだろうか。確実なリターンがまちにかえってくる。