少子高齢社会のまちの持続と再生に向けて

−協働的リノベーションが必要−

高経年住宅団地における街の持続と再生に向けた試行

 昨年度から、川崎市多摩区内の1960年代後半に当時の日本住宅公団によって開発された7街区、44棟、1108戸の分譲住宅団地で(写真1)、国交省の「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」に採択されたプロジェクトに携わっている。とりあえずは、そこでわかったことを説明したい。
現在の団地所有者の年齢は80歳以上が22%、70歳代が30%、60歳代が28%の超高齢化・高経年団地である。しかしながら、最寄り駅から歩けるという交通の便と、利便施設が団地内に整っている点から再販でも、賃貸でもそこそこの流通はあり、本人居住は72%、親族居住が10%、他人に賃貸が13%、物置・倉庫利用2_%、空き家2%の状況である。利用上、遊休化している住戸は全体の5%、約50戸程度という団地である。
 こうした状況がわかったこと自体がこのモデル事業の一つの成果であるが、この団地では遊休住戸の賃貸化の促進を主目的にした取り組みを行っている。その理由は、所有者間では建て替えに対する関心が高いが、それにすぐに着手できる段階までには至っていないこと、一定の賃貸流通の実績があり、それによって30歳代、40歳代の若いファミリー世帯を呼び込めていることがある。再販流通も当然に見込めるが、当該団地は耐震診断を受けておらず、しかも建て替えへの関心が高い状況下で再販促進には踏み込み難い。
 さて、そのプロジェクトを立ち上げてみてわかったことは、単純にリフォームして、店子を募集し、契約して貸すという従来的な仕組みではもはやどうしようもないことである。その端的な証拠は、団地周辺の近傍同種の民間賃貸住宅に比べて賃料が著しく低いことである。平米当たり賃料で300円程度低い。市場では、こうした高経年の分譲住戸は賃料で見る限り不当ともいえるほど低く評価されている。
 では、デザイン性でもライフスタイル提案でも高質なリノベーション(以下、リノベ)をしてみたらどうかを現在実験中である。ところが、実験当初で分かったことは、それに必要な初期資本を家主も借り手も出せないという極めて当然なことである。分譲住宅の所有者はプロの家主ではない。築50年近い団地住戸の場合、現ファミリーの関心を引くリノベを行うには最低でも300万円程度
の初期投資が必要である。この団地の3DK・65m²住戸の現況家賃は月8万円前後であるが、リノベで月額1_万円以上の賃料値上げは困難であり、投下資金を単純に回収するのに4年以上かかる。そのリスクをとる勇気のあるシロウト家主は少ない。一方、店子として300万円を超えるリノベ費用を支払ってまで借りたいという若者はいない。リノベ後の家賃をゼロにすれば現れるかもしれないが、それでは家主が困る。
 ことほど然様に、「高経年団地の既存住戸の流通促進」という立派なスローガンに比して、現実は極めて困難である。果たして、起死回生の策はないのか。

photo1