萩野さんの事務所には,アメリカン・ボザールスタイルの建築のドローイングと,土の仕上げの見本が同居している。日本の各地でプロジェクトを進めている建築家であると同時にNPO法人輪島土蔵文化研究会の理事長でもある。東京大学の香山寿夫先生の研究室で学び,フルブライトでペンシルバニア大学に留学という,最も正統的な建築教育の経歴とデザイン受賞歴をもつ萩野さんが,ご家族とともに輪島に移り,家と事務所を構えて,地域の人々と意欲的に意義深い活動をされていることに感慨を覚え,時代の変化を感じた。
林の中に建てられた自邸は快適そのものの伸びやかな空間である。半分は自力建設で,通常の仕上げがされてない部分もあるが気にならない,というよりむしろ自然で心地よく感じる。事務所でも感じるこうしたおおらかさは,ライフスタイルを見る視点第25回の新潟越前浜の星名さん達のセンスと似ている気もする。
インタビューでも話されているように,帰国し日本でどう働くか,どう生きるかについて萩野さんには,様々な葛藤があったことと察する。しかし現在の活動と生活を拝見していると,かつて萩野さんが感動し学んだ「歴史や伝統を重んじ,地域に強いコミュニティがある」アメリカ,いわゆる「グローバリゼーションの張本人ではない」アメリカの最も良い部分を能登で実践されているように思える。
萩野さんのように,正統的な建築のバックグラウンドと幅広いネットワークをもった若い建築の専門家達が,日本の各地に住み,外からみた日本という視点も踏まえて,地域の文化と建築の価値を発見し活動していくというのは,今後の日本のあるべき姿として,また専門家のライフスタイルのあり方としてかなり有望ではないだろうか。
(鈴木毅)
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