ライフスタイル考現行


3.開発当初に入居したAさん −住宅の拡大と家族の縮小−

[入居年] 昭和42年
[現在の居住者] 70代の夫婦
[現在の住宅] 当初のプレファブ平屋建住宅の上に木造オカグラ増築
[ヒアリング対象] Aさん(女性)

40年前のG団地への入居

--こちらのお宅に入居したのは,いつごろですか?
昭和42年に,入居しました。その前は,大阪伊丹の借家に住んでいたの。それで,持ち家を買おうということになって,実家が近くだったので,この辺りを主人がせっせと探して回っていたわ。本当は,ここはもう買い手がついていたのだけど,その人がキャンセルしたので,すぐに決めたの。当時はここはよく売れていて,競争が激しかったみたい。

--なぜ,S社のプレハブ住宅を選ばれたのですか?
その時は,木造の住宅とプレハブ住宅の違いは特に考えなかったわね。ただ,このS社の住宅は畳が大きいので,同じ6畳間でも部屋が広いな,と感じて,それが気に入ったのです。

--そのころのG団地は,どのような場所でしたか?
それはもう,緑が多くて静かな良い住宅地だと思いました。でも,最初はどの家にも庭木がほとんど植えられていなくて,同じ姿のS社のプレハブがズラッと並んでいるだけでしょ。目印になるものが無いから,団地の中に入ると自分のいる場所が分からなくなる感じだったのよ。あと,道が土のままだったので,雨が降ったら長靴をはかないといけなかったわ。

--買い物などはどうしていましたか?
最初は,ここから駅へ向かうバスは1時間に1本しかなかったの。その頃は近所にスーパーも無かったし。でもその代わりに,八百屋さんや魚屋さんが週に2回ぐらい車で行商に来てくれるので,道端で買っていたわ。

--その後に,買い物などは便利になりましたか?
入居してしばらくしてからは,駅へ行くバスが朝は3分に1本,昼は10分に1本になって,とても便利だったわ。スーパーも,自転車で10分ぐらいの場所に3つできたの。だから,車は持っていないけど不便に感じたことは無いのよ。


家族の器としての住宅の拡大

--当時の家族構成は?
入居した頃は,私たち夫婦は30代。あと,長男が小学校1年生で,娘はまだ生まれていなかったわ。その後に娘が生まれて,だんだん家が狭く感じるようになっていったの。

--こちらでは,平屋のプレハブ住宅の上に,木造のオカグラ増築をされていますが,どういう経緯だったのですか?
この増築をしたのは,昭和55年ぐらいの夏だったわ。息子が大学生になったので,子ども部屋がほしくて増築したの。プレハブ住宅の屋根を取って上に木造の増築をしたから,元の平屋の周りには柱が立っているわ。実は,同じ業者の同じような増築がこの辺にいくつかあって,我が家は4軒目だったの。それで,業者もある程度慣れていたみたいだったわ。

--将来一緒に住むことを考えて大きな増築をしたのですか。
そんなことはまったく考えなかったわ。だって,2階には洗面・トイレもつけていないし。

--増築した2階は,どのように使われていたのですか?
増築した2階は,和室3部屋と洋室1部屋で,あわせて70m2あります。今考えると,何でそんなに大きな増築をしたのか,分からないのだけどね。当時大学生だった息子が和室2部屋,娘がもう1部屋を使って,洋室は特に目的は無かったの。息子は,結婚するまでずっとこの部屋を使っていたけど,娘は数年で東京に行ってしまったの。洋室は,いつの間にか物置になってしまいました。


子ども達の独立と高齢化

--お子さんが二人とも独立された後は,どのようにお住まいですか?
長男は,結婚したときに出て行って,今は大阪市内のマンションに住んでいます。ちょくちょくここに寄ってくれるわ。2人が独立したあとには,私たち夫婦2人は1階しか使っていないの。2階は子どもたちが残していった物の物置となっています。ただ,天気が良い日は,窓を開けたりはしているけど。主人なんか,普段は2階に上がる用事がないから,今日は本当に久しぶりに(調査員を案内するために)2階に上がったのよ。

--周りのお宅も,夫婦のみの世帯が多いのですか?
このブロックで子どもが残っているのは1軒しかないわ。そこは8年ぐらい前に2世帯住宅に建て替えたの。他は,子どもが出て行ってしまって,建て替えるきっかけがないから,今でも最初のプレハブに住んでいる人が多いわ。お隣さんは,しばらく前に建て替えたけど,結局子どもは一緒に住まなくておばあちゃんの一人暮らしになってしまって。そのおばあちゃんが最近入院してしまったので今は空き家なの。


第1世代の高齢者の集団活動

--今のご近所の様子はいかがですか?
入居したときは,みんな若くて,うちも30代。でも,みんな一緒に年をとったから,今は70,80歳の人ばかり。一人暮らしの世帯も多いわ。でも,みんな一緒に入居して,入れ替わりもほとんどないから,長い付き合いで安心だわ。

--居住者同士の活動などもあるのですか?
年配同士で,結構付き合いは濃密なの。G団地の老人会があって,90人近くの人が入会しているわ。この老人会には,60歳以上はだれでも参加できるのだけど,実際には最初から住んでいる人ばかりで,その下の60歳代はほとんどいないの。

--老人会では,どのような活動をしているのですか?
G団地には小さな集会所があるので,そこで色々な活動をしているの。大正琴,カラオケ,折り紙,フォークダンス,民謡,日本舞踊などがあって,集会所の予定表は午前と午後に分かれているのだけど毎日スケジュールが埋まっているわ。いくつも参加している人もいるの。


40年の変化

--このプレハブ住宅にこれまで40年住んでみて,どうでしたか。
不具合は今でもないわ。サッシや網戸も当時のままなの。2階の増築部分の網戸は破れたけど,このプレハブの網戸は40年経っても大丈夫。何もかもが古くなってしまったけど。増築をお願いした工務店は今はないので,その後は全部S社にお願いしているのだけど,小さなことでもすぐに来てくれるから助かるわ。

--G団地全体としては,いかがですか?
入居の時は周りが山に囲まれていて,子どもたちも最初は山の中の細い小道を通って通学していて,途中でオタマジャクシをいっぱい捕ったりして。自然が豊かでいい場所でした。そのときは,開発はここで終わりと思っていたけど,結局回りの山もその後で開発されて住宅地になってしまったの。それでも,団地の中は,今でも静かで良いわ。



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