パネルディスカッション2018
成熟社会の住宅市場とハウスメーカーの取り組み

パネルディスカッション

園田:この成熟社会居住研究会は12年以上継続していますが、12年前は日本の高齢化率はまだ2割を超えるか超えないかくらいで、住宅会社の社内でなぜ高齢者のことをやっているの?と聞かれるような状況だったかと思います。しかし本日は多くの方々に参加いただいており、状況は大きく変わりました。一斉に住宅がつくられた郊外住宅団地では、一斉に高齢化が進んで、次の世代の入居がなければ膨大な空き家が発生することになります。日本の超高齢化を乗り切るためには、地域包括ケアという、住まいと住まい方の上に生活支援があって、その上に介護・医療・福祉という制度化された公助があるという植木鉢型のシステムが必要とされていますが、20世紀後半の住宅会社がつくってきた家は3〜4人家族の核家族向けですから、植木鉢は立派でもそこに高齢者が1〜2人でどのように生活するかが問題になります。そこに果敢に切り込んでいるのが岸さんのセキスイオアシスモデルですが、民間ビジネスとしてはすわりの悪い地域包括ケアシステムに切り込むことは他の民間企業でも展開可能なものなのでしょうか
岸:吉田座長のマザアスさんも携わっておられるので、他の会社でも可能だと思います。ただ弊社がここまでやってきたのは、ニーズがここにあるからです。現場を直視しているとやらずにいられないというか、商圏4km圏の狭いエリアでの事業展開で深堀すると、介護と住まいの問題点が見えてきて、リフォームだけでは対処しきれない住まいの問題にサ高住で対応し、サ高住においても医療連携型の介護サービスが必要になってきた方のために、3つめの拠点ができました。基本は、お客様のニーズから事業展開したということです。
園田:4km圏でのビジネスモデルということですが、まさにこれは地域包括ケアシステムの優良モデルです。吉田さんのご経験で、民間企業が地域の取り結びはどのようにすればできるとお考えですか?
吉田:最近の動きでは、余命が宣告されている方のための緩和ケアを有料老人ホームにおいてもというものがありますが、余命宣告されている方の9割以上の方が自宅に戻りたいと言われます。60代ではご両親、70〜80代ではご本人がそういう状態です。住宅会社は今までは30〜40代の方を対象に新築住宅を販売してきましたが、人口構成比も変わって、60〜80代の方々に提案する時代になりました。弊社では半径10km圏で事業展開を進めていますが、直営でホスピスや介護付き有料老人ホームを運営しており、看護師も弊社社員で抱えています。ただ弊社が直営であちらこちらで事業展開することには限りがありますので、直営を売りにしながらも、 共感的理解を持つ事業者と横のつながりでの事業展開を考えています。
園田:半径4kmから10kmの圏域でモデルをつくって、そのノウハウを横展開ということですが 石坂さんはこのビジネスモデルについて、どのように感じられますか
石坂:国交省でもサ高住や新たなセーフティネット住宅を進めてきましたが、単に建物をつくるだけではなくて、それが地域でどういう役割を果たすかという面的な展開が必要と考えています。単に高齢者住宅をつくるだけではなくて、地域で高齢者がどのように活躍するかについての仕組みを考え始めています。
平山:シニアも変わってきていて、ホスピタリティにあふれ、自治会などでの何らかの形で社会貢献を考えておられます。空き家や空き店舗は全国的に増えていますが、シニアのホスピタリティと力をつかって、NPOや企業と上手にネットワークをつくって、生きた地域包括支援システムができればいいかと思います。どこかのモデル地区での取組みができればと思います。
園田:本日はK団地をモデルにしようとすると、1億円の初期投資が必要とのお話でしたが、吉武さんは郊外住宅団地での空き家活用についてどのようにお考えですか?
吉武:1億円はシャッター街化したショッピングセンターの再生に必要な初期投資として算出したものですが、現在は空き家活用による居住支援の取組みがK団地でも進められています。郊外住宅団地にはしっかりしたいい住宅ストックがありますので、それをどのように活用するかが検討されています。
園田:空き家活用にも1千万単位のリノベーション費用が必要になりますが、そういうことを学ぶことでNSCCのようなところでシニアが勉強し、意識が変わることを民間事業者が待つということになるのでしょうか。
平山: NSCCの受講生や健生ネットワーク京都の会員には、ビルや大邸宅の所有者がおられ、そういう方に家を提供していただいてリフォームすることが考えられます。NPOがミニ版地域包括ケアをやるところもありますので、あまりデータにはしにくいですが、種は全国各地にあると思います。アクティブな自治会長さんが建築協定を変えるような事例もあります。