パネルディスカッション2018
成熟社会の住宅市場とハウスメーカーの取り組み

(3) 伊勢原「風の丘」の事例

 このビジネスモデルを構築する上で参考した事例は、神奈川県伊勢原市の小規模ホーム「風の丘」で、我々も視察に伺いました。これは小規模多機能と居宅介護支援事業所、レストラン、住宅型有料老人ホームの複合施設ですが、参考事例として特筆される点が3点あります。1つは地域で古くから家事サービスや通所介護などの高齢者の生活を支援する取組みを進めており、地域の信頼を受けているNPO法人が、通所介護の利用者からの小規模多機能をぜひつくってほしいとの要望を実現したということです。2つめはやはりこのNPO法人の通所介護を利用していたひとり暮らし高齢者から住宅の提供があって実現したということです。「風の丘」の玄関にある記念碑には、この方がよくおっしゃられていた言葉「この地で信頼できる人たちと暮らしつづけたい」が刻まれています。3つめは1億円余りの建設費のうち、7,100万円は地域住民からの1口100万円の融資が充てられたことです。この1億円という建設費について、K団地のビジネスモデルにおいて参考にさせていただきました。

(4) ビジネスモデルに対する住民の評価

 我々はこのビジネスモデルの評価会を、モデルとなった団地内で開催しました。地元からは、この団地で住み続ける上でとても大事なプロジェクトになるという評価をいただきましたが、一方で、固定資産税程度という土地コストほぼゼロで使えるような土地はないという指摘をいただきました。調整池を使うとしても、その宅地化にはコストがかかります。ショッピングセンター跡地については所有者と長い間協議しているところということでした。
 また、成熟研に参加しておられるハウスメーカーや学識経験者からの評価もいただきました。その中で小規模多機能が成立するには1つの介護事業者で人口1万人レベルの地域の要介護高齢者へのケアサービスを囲いこむことが必要で、この条件をどうつくるかが課題というご指摘をいただいています。また、20年後の出口戦略をつくらなければ、信頼できる事業にならないとの評価をいただきました。

(5) ビジネスモデルに対する住民の評価

 今回の研究で子育て拠点のニーズが指摘されたことを受けて、自治会では、自治会館を増築し、「ベビー&キッズわくわく広場」を整備しました。
 これからについてですが、この自治会では、まちづくりを専門者会議で進める考えから、建築関係・法律関係・医療関係・福祉関係者・まちづくり関係経験者を募集することや、空き家に関する主体的な取組みなど、新しい展開は生まれています。ショッピングセンター跡地の利用について住民検討会も進められているとのことです。成熟研で自治会とJTIとのミーティングも実施し、住宅循環についても地域にご理解をいただきました。
 地域のコアによる主体的な活動が進められていることを土台にした、郊外住宅地再生の基盤は醸成されていると考えられます。空き家・空き地を利用したサ高住や小規模多機能の導入、住み続け可能なリフォーム、住宅循環といった郊外住宅再生のプロジェクトの可能性をこれからも追求していく考えです。