成熟社会における住宅流通を考える

【質疑応答・意見交換】

園田教授:2006年から2008年にかけての中古戸建件数右肩あがりは、ちょうど団塊世代とそのJr世代の住宅取得時期と重なっている。 2008年には1948年生まれの団塊世代が60歳になり、1973年生まれの団塊世代Jr.が35歳になる。リーマンショックでそれまで回復段階だった景気が落ち込んだことと併せ、2009年以降住宅需要人口のボリュームが縮小していることが、 中古戸建件数の大幅減少につながっていると考えられる。住宅需要人口のボリュームがこれからますます縮小する中で、中古住宅の登録などの件数は回復するのだろうか。

矢部氏:ご指摘の取り、人口ボーナスと呼ばれる年齢層は概ね2005年から2010年の間に家を買ってしまっている。 25歳から44歳くらいの住宅需要期といわれる年齢層は、2005年には3,600万人くらい居たが、2035年には2,300万人くらいとなり、約2/3に減少する。 これからは1人の人間が住宅を何回も売り買いをする社会構造になると考えられ、中古住宅市場活性化はその住宅サイクルを途切れさせないものである。

園田教授:中古住宅の値段は下がっていないとのことであるが、今はまだ我慢している段階なのかもしれない。 モラトリアム法が今年3月終了となったが、ローン破たんの問題が秋くらいに発生すると予測されており、そのときに一気に値崩れするのではないか。

矢部氏:中古住宅の値段が下がるかは、取引が成立するかにかかっている。全体の相場の動きとは離れて住宅個別の条件によって値段がきちんと付く物件もあるわけで、 マーケットそれぞれの状況により値段が下がる物件もあり、下がらない物件もあるという、まだら状態になるのではないか。住宅ローン破たんについては、金融機関としては少しでも回収できる方法を選択するのではないか。

園田教授:居住者がまちを気に入ったポイントの中に「好みにあったカフェ・レストラン」があるが、青葉区のフレンチやイタリアンのお店の閉店も目につくようになっている。 これから2年から3年後にはさらに荒廃したまちが発生するのではないか。

矢部氏:アムステルダムで既存建物再生を専門的に扱っているディベロッパーに取材できたが、彼らはアーチストをアンバサダー(大使)と呼んでいる。 アーチストの活動そのもので家賃収入はあまり見込めないが、アーチストが別のより家賃負担力の高い人を連れてきて、次のそうした人とビジネスのやり取りをする人たちがまちにやってくる。 そうした3段階の人の吸引に3年くらいかけて、その後の7年間くらいで投資を回収するシナリオが設計されている。日本の不動産業界ではこのような時間軸のシナリオを書く人がまだいない。 R不動産の活動も、建築家が不動産会社の領域まで踏み込んだからできるものと考えられる。

園田教授:アメリカやヨーロッパでは、価格がゼロになった時点にアンバサダーとなるアーチストを入れようという判断がなされる。 日本ではゼロにしてしまっては元も子もないという力学が働いて、フレンチレストランが空き店舗のままとなる。

成熟研委員(東急不動産):東急総合研究所で田園都市線沿線の将来に関する研究を行っていたときのモチベーションの1つは、都心回帰現象の中で郊外衰退が懸念され始めた時期であり、 その衰退の中で勝ち組になるには何が必要かを考えることだった。そのときに、このまちに住まう、つまりこのまちに投資することには、このまちなら値崩れしないという感覚が必要という考えに至った。 ベンツやBMWの認定中古車のことも研究して、それがアライエにつながっている。そのブランドの新車が買いたいが、買えない層が認定中古車を購入する。 田園都市線においても、新築である程度のプライスを確保しなければ、中古住宅も成立しない。まちの持続性が信頼されれば、インスペクション・メンテナンスにより中古住宅も売れるようになる。 もう1つのモチベーションは、大店立地法によりロードサイド型の商業施設が増えていた時期であり、鉄道会社として駅周辺の魅力を創出し、投資を促すことであった。 たまプラーザなどの取り組みに活かされているが、今の車離れ世代のニーズに、偶然ではあるが、適合することになった。ロードサイドの事業を行っている会社に駅周辺にも出店してもらうといった戦略も実践した。

矢部氏:国土交通白書などで若い世代の都心回帰が触れられているが、都心に回帰する理由はそこでしか仕事がないという面をさらに掘り下げるべきと考えている。 1人あたり年収が下がり、共働き世帯が増えている。夫婦のどちらかに負担がかかるような住まい方を避けるために、都心を選択する。田園都市線の駅周辺の商業施設は、働く場としても重要なのではないか。

成熟研委員(成熟研委員):イギリスの田園都市をお手本にしながら、イギリスのような職住近接が進められていないことの反省はある。 二子玉川駅周辺において、働く場としての機能導入を進めている。田園都市線では、昔ながらのライフスタイルが評価されている面もある。青葉区では来年、慶応小学校が開校するが、子育てのまちが進められている。

園田:不動産仲介業が3%ずつの両手取りという、売り手有利になりやすいビジネスモデルでは、取引の公正性が信頼されず、フェアなマーケットにはなりにくいのではないか。 成約価格の3%というやり方では、マーケットにおいて価格を下げるインセンティブが働きにくいのではないか。

矢部氏:成約価格に対して、ビル1棟でも住宅1棟でも同じ率をかけたものが手数料になるというやり方については、物件が大きくなるほどタスクが多く、責任も大きくなるから合理的という考えもある。 不動産仲介業のダブルエージェントの問題については、第3者の評価による対処が考えられる。 アメリカでは、売り手と買い手が別々の不動産エージェントを雇い、買い手側がインスペクションを自己責任で利用し、エスクロー(第3者となる仲介者)を介して、価格の根拠と正当性を理解できるようにしている。

園田教授:日本においてもエスクローの部分をつくっていかなければ、フェアな市場は成り立たない。

成熟研委員:国土交通省がホームインスペクションを導入したときは、売り手側によるインスペクション実施を促進する方針だった。

矢部氏:初めはそうだったが、最近の研究により、国土交通省も売り手にインスペクションを求めることはあまり現実的ではないと考えるようになった。 国交省としては、きれいな品質の中古住宅が市場に出ることでの市場活性化を狙って、売り手側によるインスペクション実施を進めようとしていたが、今は瑕疵保険による、きれいな中古住宅の流通を進めようとしている。

成熟研委員:アメリカの住宅資産の評価は、日本と違って、建物への評価が全てとなっているのではないか。日本のように地震の多い国では、建物は“はかないもの”という認識があるのかもしれない。

矢部氏:HOAの一つの目的には、そのまちの住まいを買う人が途絶えないように、環境などを整備するということがある。建物をどう使うか、どうやって使えるようにするかだけではないことはそうであろう。

成熟研委員:車検のような“家検”の実施はできないだろうか。

矢部氏:不動産流通活性化フォーラムでもその意見が出されている。

園田教授:JTIでは、大手ハウスメーカーによる住宅の、5万円/月程度の定額家賃借上げによる、ノンリコース的な買い手保証を始めているが、どのように思われるか。

矢部氏:賃貸住宅経営はマネージメント(どういう人にどういう使い方をしてもらうかを企画する)、オペレーション(入居者を集め、選定する)、アカウント(投資と収支)、メンテナンスの4つで構成される。 定額家賃借上げの意図は理解できるが、オペレーションの部分がポイントではないか。

成熟研委員:弊社の都内物件の6割くらいに対して、JTIによる適合認定書が発行されることになっている。オペレーションについては、5億円の基金が資金の裏付けになっている。 中古戸建住宅の管理ビジネスを実際に始めているところはあるのだろうか。

矢部氏:九州では事業の実例も出始めている。ただ、空き家を管理したあと、空き家を使ったビジネス展開にまでは至っていないと認識している。

園田教授:私自身、明治大学の1,000戸近くあるUR団地における、空き家を使ったビジネスを始めようとしている。先例はあまりない。 管理組合は、空き家のままでも管理費さえとれればいいという感覚で、空き家を使ったビジネスには踏み込んでこなかった。

成熟研委員:お年寄りが1人住まいで家の管理ができるかという問題もある。地域の介護事業者などで、空き家を使ったビジネスに意欲があるが、マネージメントのやり方が分からないことが問題になっている。

矢部氏:住宅管理では、ドアの内側に入ることが難しい。介護事業者であれば、ドアの内側に入る関係を住宅所有者と日常的につくっており、空き家活用を進める可能性があるかもしれない。

成熟研委員:築年数20年以上でも、建物評価の高い物件があることは、どういう理由だろうか。

成熟研委員:住宅履歴管理などの優良性による可能性もあるのではないか。

矢部氏:サンプル数がまだ少ないので、断定はできないが、その可能性はある。

成熟研委員:制度設計の道筋はたっているのか。

矢部氏:具体的な制度設定にまでは至っていないが、国土交通省は2020年を目標した研究を行っている。まずは金融にフォーカスした検討を進めており、金融庁からの参加を実現したことが大きな成果になっている。