成熟社会における住宅流通を考える

(2)不動産流通活性化を考えるにあたって

・住宅サイクルという考え方

 少し話題を変えます。住生活基本法の基本的な考え方は、いい住宅を建て、それが長持ちするようにメンテナンスをし、長持ちする住宅の不動産取引プロセスを透明化して、次の使い手に円滑につなげていくことであると捉えることができます。
 消費者が住宅取得を検討するときに重視するポイントとして、購入しやすさ、つまり安さの一方で耐震・耐久など品質・性能の高さを同時に求める傾向があるといえます。 それを突き詰めていくと、結果的に性能が分かりやすく買いやすい価格である住宅として新築住宅や築浅もしくはリフォーム済みの中古住宅が購入対象となりやすいと言えます。
 また、日本の住宅ユーザーは一般的に住み始めるとほぼ手を入れることがなく、壊れたらリペアする程度であることが分かっています。 4年ほど前に実施された日本首都圏とアメリカ西海岸の住宅所有者の調査によると、住宅取得以降に住宅に手入れる回数は、アメリカの住宅所有者は5〜6回であったことに対して、日本では1〜2回であるといった結果も得ています。 そうした消費者の態度に対応するように、供給側もユーザーがなるべく手をいれずに済むような住宅商品を目指して供給を継続してきた背景があります。
 しかしながら住宅を所有してから、ご自分の仕事の都合や家族の都合などで家を売らなければならなくなる可能性は当然あるわけで、その場合は自身が住宅所有者が購入検討者であった時に求めていた、良好にメンテされていた住宅とは対極の、 あまりメンテされていない住宅を売りに出すことになります。このようなギャップが住宅サイクルの途切れの原因になっているのだと思います。 さらに、この途切れたサイクルを乗り越える主な手段としてスクラップアンドビルド、つまり建て替えるということがこれまでの主な手段であったと言えます。 こうしたサイクルの途切れの構造ゆえに、取得した住宅は自分の代でもてば十分という一世代一住宅の考え方が当たり前にな考え方になってきたのではないでしょうか。
 しかし人口減少や若年層所得の低下といった社会的状況から、建て替えによらずにこのギャップをつなげて、一世代一住宅ではなく、複数世代・複数ユーザーで住宅を循環させることが、住生活基本法の基本方針となってきました。 住宅サイクルにより生まれるビジネスチャンスとして性能表示や瑕疵担保保険、あるいは住宅履歴管理などの支援が考えられますが、今はあまり無いビジネスにより住宅履歴と性能表示への消費者の信頼性が確立されることで、 住宅がマーケットに戻されたときの、レンダーへの品質エビデンス提示や、適切なリフォーム推進へとビジネスチャンスが広がっていくことが考えられます。例えば、戸建住宅を購入した時点で、その性能の全責任を購入者自身が負うことになるわけですが、 分譲譲マンションであればマンション管理会社による管理ビジネスがありますし、賃貸住宅であれば賃貸管理のビジネスがあります。 このことは現在の既存住宅の半分は管理サポートを受けていない住宅であり、大きなビジネスチャンスが残されていることを示しています。 そして、このような無管理住宅を無くしていく新しいビジネスが発達していくと、アメリカのHOAやイギリスのレッチワースのような事例が日本にも誕生することに繋がるのではないでしょうか。

・日米の住宅投資額累計と住宅資産額

 国土交通省によって設置された「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」で配布された参考資料によると、アメリカでは住宅の投資累積額とほぼ同じ額の住宅ストック資産が形成されていますが、 日本における住宅への投資は1980年から2010年にかけて累積750兆円が投資されたにもかかわらず、2010年における住宅ストックの資産額は240兆円程度であり、約500兆円が失われている計算になります。 この喪失われた分はほとんどが上物の評価であると考えられ、そのように一方的に減価している資産額をレンダーにどのように評価してもらうかがこの研究会の一つの目的であり、住宅産業の出口戦略につながっていくものとして注目が集まっています。
 ところで、市場における実際はどうなのか。弊社メディアの掲載事例を元に、建物の評価について分析した結果が資料でお示ししたものです。 具体的には周辺の土地取引での土地価格を元に、各掲載事例における土地相当額を推計し、掲載事例の価格から土地相当額を差し引くことで、建物相当額の推計を行った結果です。 これを見ると、築後21年以上経過すると、推計上の建物相当額は多くの事例でゼロ以下となることが分かります。 しかしすべてがゼロ以下になっているわけでもなく、中には築21年以上経過していても4,000万円以上の建物相当額が推計されている事例もあります。 今回は単純に価格のつけ方という結果だけを使った分析であり、今後こうした事例の背景にある特性を分析することができれば中古住宅市場のさらなる活性化のヒントにつながると思いますし、住宅会社の皆様と一緒に研究を進めて行きたいと考えています。

・消費者の意思決定の特徴

 2013年の3月に弊社が実施したアンケート調査では、住宅など数百万円から数千万円の商品サービス購入では、その意識決定について「専門知識の豊富な第三者の意見を集めて、 それを参考にして決めたい」との回答数が、それより低価格帯の商品サービス購入よりも大幅に高くなるという結果がでました。販売員や企業からの公的な情報よりも第三者からの意見が重要な要素であるという事が考えられます。
 国交省は「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」において、住宅購入者が自らの責任でインスペクションをきちんとやっていくようにしていきたいと明言している。第三者による性能評価を進めて行くことは、不動産会社のみではできないことであり、 この領域は建設を請け負っている住宅会社や工務店が入っていく領域と考えられます。ところで、住宅検査(インスペクション)を実施したきっかけについて聞いた弊社アンケート調査では、 不動産会社からなどの紹介や助言を受けた人は自分でお金を払って行っていることが読み取れます。購入者は必要と分かれば、自分でお金を出してでも、インスペクションを行っているということです。 このことからも住宅会社や不動産会社からの検査に関する真摯な情報提供姿勢もこれからの産業に関わる業者の姿勢として大切なことになっています。