やっぱり仕組みじゃなくて人だわ
空き家や空きビルといったまちの空間資源を発見し、それに手を加えることで、新しい暮らしの場を創り出す。そんな21世紀の日本らしい活動が、各地のまちで見られるようになりました。この「ライフスタイルとすまい・まち」でも、これまで何度もそういうまちと活動を取り上げてきました。私自身も、このWEBサイトでの取材をきっかけに何冊かの本を上梓してもきました。
恥ずかしながら、この頁も本の方も、総じて面白がって読んで頂けていると思い込んでいるのですが、よく指摘されることがあります。
「精力的に各地を回って、直に見聞きしてきた様々な新しい動きを紹介してくれているのはいいのだけれど、折角なら、それらに共通する事柄などをうまく整理して、新しいすまいやまちづくりの仕組みの提案までしてもらいたかったな。」
というような指摘です。
「お気持ちはよくわかりますが、どこでも通用する仕組みのようなものはないと思いますよ。」
そう答えることにしています。そして、その次にはこう言います。
「結局は人です。そういう新しい動きを生み出して、引張って行ける素晴らしい人がまちにいるかどうかなんですよね」と。
今回の尾道で、豊田さんに話を伺い、あちらこちらの実践の場に連れて行って頂き、彼女がまちの人やNPOの仲間や職人さんたちと接する姿を見て、「やっぱり仕組みじゃなくて人だわ」の意を強くしました。そして、豊田さんのように、住宅や建築を専門に学んだり、それを業としたりしてきた人ではなく、生活者としてのきちんとした美意識と、自分の育ったまちに対する熱い思いや危機感を持った人が、空間資源に働きかけて新しい暮らしの場を創り出す活動の中心にいることに、「やっぱり建築屋じゃなくて生活者だわ」の意を強くもしました。
小津安二郎の代表作「東京物語」に出てくる尾道。60年以上前の映画の風景を思い出させる雰囲気を角角に残しながら、新しい時代の息吹がそこここで生まれているまち。この尾道のように、日本の各地で時代は確実に前に進んでいます。本当にわくわくさせられます。
(松村秀一)
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