講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.クライアントのライフスタイルの傾向
鈴木:  千里ニュータウンのお話に興味は尽きませんが、Msの仕事の方に移りたいと思います。最近のお施主さんに変化が見られたりしますか?
三澤(康):  ずっと「住まいメモ」という記録を作っています。住まい手に書いていただく要望書のようなものです。もともとは宮脇檀さんのアイデアで、そのMs版です。作成目的は、お施主さんがこれからどういう生活をしたいのか知ることです。私たちは250件くらい設計してきましたけれども、結果としてはそんなに特殊な住み方はありません。十人十色の住み方があって、それに対応するために設計者がいるんだという反論があるかもしれません。でも住むことは難しいことじゃありませんから。

ただ、私たちみたいに家に24時間居るような場合ははっきりした住み方がありますが、通勤している人たちに聞くと、戸惑われる場合が少なくありません。それでも女性は家事の順番などをイメージしますが、男性にはそれさえも思い浮かばない。
三澤(文):  住まいメモに書いていただく時に、どんなライフスタイルですかというような抽象的な質問はありません。それまでの生活を具体的に記述していただく質問があって、そこから住み方を引き出します。例えば「夕飯を一緒に食べるか?」といった質問項目で把握するわけです。

それと私が重視するのは、「これからしたいことは何ですか?」という質問です。これはご主人と奥さんの両方への問いかけです。すると、ご主人がキャンプやアウトドアをしたいとか、美術館めぐりをしたいとか書いてきます。それに対して、住宅によって叶えられることが何かないか考えて行きます。「将来に対する夢」も注意して見ています。でも、そんなに際立った違いはありませんよ。
松村:  例えばどんな夢がありますか?
三澤(文):  家族みんなが集まって明るく過ごせる家とか、友達がみんな寄ってきてくれる家とかです。普通だけれども幸せに暮らせる家ということでしょうね。こう言ってしまうと、何か乙女チックになってしまいますが…。
松村:  だいたい神社でお祈りしているようなことですね(笑い)。
三澤(文):  夢ですからね。だって夢がなかったら新しい家を建てないでしょ。きっと何かが良くなると思って建てるんですよ。
鈴木:  でも、家を建てると何か特別なことが起こるとか、全然違う生活スタイルを始めるという感じではないんですね?
三澤(文):  そういう構えた感じはないですね。憧れていたちょっとした願いが叶うといった程度です。例えば、ハーブを植えて、料理をしている時に採ってきたりとか…。

印象深いお施主さんとして覚えているのは、薪ストーブを求めてきた方です。70万円ほどするので、コストダウン項目の一つとしてペレットストーブを薦めてみたんです。使いやすいし価格も半分になりますから。受け入れてもらえると思っていたら、待ってくれっておっしゃる。三澤さんに設計を頼んだのは、薪ストーブを燃やして暖をとるような生活をしたいと思ったからだと言うんです。薪を割ってくべて、ちょっとつけにくいけどマッチを擦って、だんだん燃えてくる。そういうゆっくりとしたリズムの生活を目指しているというわけです。それなのにペレットストーブにしてしまうと、家を建てる意味がなくなってしまうと言われました。

このお施主さんほどではないにしても、最近は自分のライフスタイルにMsが合いそうかどうかよく調べてくる人たちが多いので、ミスマッチはあまりないですね。
松村:  ミスマッチというのはどんな人ですか?
三澤(文):  例えば、メンテナンスフリーのサイディング外壁が欲しいという方です(笑い)。もっともMsを分かって下さっているようで、微妙に違っていることもあります。出来合いの物をあつらえてもらえると思っているような場合です。傾向として高級外車に乗っている方はミスマッチ率が高いようです。
三澤(康):  昔は家を建てるというと、商売で成功した証でしたよね。この家を私一代で建てたんだということを誇示する必要があった。すると玄関を入るとシャンデリアがあって、大理石の床があってというステレオタイプになってしまう。そういう方向と私たちの設計は折り合わないんですね。



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