講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


10.歩車分離と防犯
松村:  多摩ニュータウンなどの開発担当者から聞いたのですが、当時は若い子育て世代を入居対象者にイメージしていたので、団地から駅まで緑道があって徒歩でアクセスできるようにと一生懸命に考えたそうです。しかし、そうした世代も最近は高齢者になって、もはや曲がりくねった道を歩くのがきつい。人に襲われたら周りに何もないので、本当に危険かどうかは分からないけれど、遠回りでも車道に沿った道を使う人が増えているんだそうです。先ほどの自動車型郊外と同様、あるライフスタイルをイメージして特定の世代に向けに作った住宅地というのは、かなり矛盾を抱えていると思います。
鈴木:  先日、市浦ハウジング&プランニングで千里ニュータウンの開発時の話を伺ったのですが、当時、車社会とそこでの都市計画について実体験・知識のあったのは、カナダで仕事をされて戻られた富安秀雄さんだけだったそうです。富安さんが関わられた千里ニュータウンの西側(ほぼ豊中市側)では立体交差などを作って歩車分離で計画するなどその知識が生かされたということです。実際、東の吹田市側とだいぶ違うものになっています。

千里ニュータウンでも犯罪が問題になっています。千里中央から街角広場に降りていく道などは、昼は気持ちがいいですが夜は少し怖いですね。最近ここに住民の活動によってスーパー防犯灯が設けられて、犯罪は激減したそうです。
松村:  港北ニュータウンに住んでいたとき、同じように感じたことがあります。緑のネットワークという歩行者用道路があるのですが、夜通ると照明も無くて、柳田國男とか宮本常一の話に出てくる夜山のような状態になる。大人でも本当に怖い。
横山(ゆ):  オスカー・ニューマンの考え方では、出入り口を集中させますよね。そうすると、集中する分だけ他の部分が疎かになる。オスカー・ニューマン・モデルの集合住宅でなくても、同じ構図の弱点が見えますね。単に窓があるというだけではなく、事件らしきことが起きたら誰かがすぐに出てくるような雰囲気になっているかどうかが重要です。イギリスを含めて由来の古いインナーシティではジェーン・ジェイコブス・モデルになっていて、街路の人通りも多いし、住戸の玄関からも人が出てくるので不安感が小さくなるのだと思います。
西田:  監視の目というと警備会社は実際に役に立っているのですか?24時間監視していますというステッカーが、うちのマンションにも貼ってありますけれど。
横山(ゆ):  防犯効果は多少あると思います。もっとも、ステッカーだけ売ることもあるらしいのですが、ばれてしまうと意味がなくなってしまいますよね(笑い)。
佐藤:  『過防備都市』というセキュリティ関係の本を書いた五十嵐太郎さんから聞いたのですが、警備会社から講演依頼がきて驚いたそうです。
西田:  建物単体の警備には相当な経験の蓄積があるのでしょうが、街に対してセキュリティをかけるとなると、ノウハウ不足を感じているのかもしれませんね。



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