講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.高齢者のライフスタイル −「楽隠居」を見学して−

松村 それでは、「楽隠居」を見学していただいた感想等を交えて、ライフスタイルについてのお話を進めていきたいと思います。

ライフスタイルのテーマの中に、「高齢者のライフスタイル」というのもあり、園田先生ご担当のHPともテーマが重なりますね。
園田 諸外国と比べると、日本の介護は割と「重い」というか、何が何でも例えば浴槽に入れなければならないとか、教条主義的なところがあります。リフトを使って、機械浴させるのは、まるで「人間天ぷら」だという表現もあるくらいです。アメリカや欧州どこもそうですが、虚弱になると浴槽が無くなってシャワーで済ませます。もちろん、前提として居室の温熱環境が整っていることがありますが。そういった「哲学」が日本の場合は欠けていて、楽隠居インフィルのような提案でも、どうしても重装備になってしまう側面があると思います。それを日本の福祉文化として、何が何でもお風呂に入るようにするのか、シャワーで済ませるようにするのか、考え方でずいぶん違ってくると思います。
村口 以前、千葉で行った「楽隠居B」で提案したのは、シャワーだけです。それが良いかどうかは別として、押入れの幅にシャワーとトイレだけのユニットを入れたのがBタイプです。
園田 もう一つ大きな点は、今回のモデルでは要介護度が1〜2居住者を想定しているそうですが、南からのアクセスを玄関とは別にとるという改造は、階段室型の集合住宅では、そもそも重介護が難しい。そうすると、バルコニーアクセスを本気でやるのかどうかを考える必要があります。
村口 そのあたりも含めて多くの関係者に考えていただけたら、ということで提案しました。南側からのアクセスは強く意識しています。
園田 公団の昭和40年代の団地は建て替えないという前提に立てば、バルコニーアクセスが提案できれば、在宅介護のリアリティは出てくると思います。
松村 住戸内では完結しない部分があるので、周りでどんな面倒をみられるのかということで設計の条件が決まってきます。バルコニー側にエレベータを新設しアクセスできるようにすることのリアリティも、そこと関わってくるのではないでしょうか。
園田 居室の外と中で介護に関するサポートをどう仕分けるかということとも関係しますね。そういう問題を解いていかないと、個人のライフスタイルだけでは、条件設定できないと思います。
松村 村口先生はインテリアデザイナーですから、まず内から発想し始めますよね。しかし、そのコンセプトとバルコニーの改造や全棟全体のアクセスの新設といったことを結びつける仕事は一体誰がやることなのでしょうか?

例えば多摩ニュータウンの古い団地で考えますと、駅から住棟までのアクセスが高齢者にとって適当でないものになっています。昔は皆が若かったから、木々の間を通り曲がっていて多少高低差のある歩車分離がされている道を歩いていましたが、今やそこは自動車があまり通らないので、まるで森の中の危ない道になってしまって、なおかつ10分程歩かないと駅につかないことが高齢者にとっては重荷になっています。そこに住棟があって住戸がありますが、住戸だけで解決できる問題以外に、駅までのアクセスの問題等も解決しないと本当に生活が豊かにならないと思います。例えば、友達を迎え入れるようにしたが、アクセスが悪いので友達が来てくれない場合も考えられます。

そこで考えなければならないのは、住戸のレベル、住棟のレベル、地域のレベルのそれぞれでの問題がどのように整合してくるかということですが、それは誰が考えるべき問題なのでしょうか。

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