ライフスタイル考現行


3.「住宅」供給の現在
松村:  今や、ある大手住宅メーカーの企業コンセプトが「幸せ」という時代なんです。広くしようとか、近代的にしようとか、便利にしようとか、そういうことは全て終わっている。地震に強くしようとか、燃えないようにしようといったことは、言うまでもない。でも「幸せ」って、他人が供給してくれるものではないでしょ。突き詰めていくと、やらなきゃいけないことは「幸せ」づくりかもしれないけれど、メーカーが作るものかというと、そうとは思えない。別の言い方をすると、そういうとても難しい地点に到達しつつあるわけです。
鈴木:  去年、住宅メーカーのホームページで住まいの写真に人がどのように映っているか調べたんです。メーカーごとに特徴があり、ある会社は必ずテラスの様子を載せていた。どうやらそれで生活を表現しようとしている。
松村:  どこまで広告代理店の考えた内容なのか分からないところはありますけどね。いずれにせよ、営業の最前線と広告戦略との間に距離があることは間違いない。
鈴木:  一方で、住宅メーカーだからこそできることもあるんじゃないですか。先日、ある住宅メーカーの方に話をしてもらったんですが、2世帯住宅で培ったノウハウが介護などにも活用できるという内容で、興味深い話でした。
松村:  でもテレビCMなどは、相変わらずかつて一般的だった家族モデルを意識させる広告になっている。高齢者の家と言っても、孫が遊びに来たくなる家というイメージ。その一方で、あるCMは家具を動かせることをアピールしていたりする。どちらにしても、球を芯で捉えている感じがしない。住み手の構成も、住み手のライフスタイルも多様で、ストライクゾーンが全くない感じですね。これらに比べると、「幸せ」というのは住み手が求めていることには違いない。でも、それは住宅メーカーが提供できることなのかっていう疑問に突き当たります。逆に言えば、これまでとは全く異なる事業体への変化の入り口にいるのかもしれません。
鈴木:  これまで供給側が、住み手の要望に応えてきたことは確かなんですよ。これからの時代のキッチンはこういう仕様になりますとか、あなたたちが欲しい生活はこれですよねと「住宅」をリードしてきた。だけど最近の住み手は、ブロガーのちきりんさんが玄関を充実させたように、リノベやDIYで自分のライフスタイルに合わせて独自の空間を自由に作ってしまうようになった。(ちきりん「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」ダイヤモンド社、2019参照)



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