トークセッション

「これからの郊外まちづくりとハウスメーカーの役割」


成熟研委員:4つのキーワード『健康』『生きがい』『つながり』『安心』は、高齢者支援と子育て層支援の両方につながると考えてよろしいでしょうか。
大和ハウス瓜坂部長:高齢者と子育て層へのサービスはそれぞれ異なりますが、この4つのキーワードは多世代のための不動のものと考えています。介護の整備は高齢者の安心につながり、若年層の悩みは安心して子育てできる環境です。子育て支援とコワーキングスペースがあればお住いのすぐ近くで仕事ができると考えられ、今は埋蔵文化財センターとして利用されている旧小学校の一階を子育て支援・コワーキングスペースにできないかと検討しています。さらに公園の一部を農地にすれば、それが高齢者から子どもまで利用できる健康や生きがいの場となります。
成熟研委員:子育て層が転入している小規模な宅地は、もともと上郷ネオポリスの開発時に小規模な宅地として整備されたものですか。それとも大きな宅地として整備されたものが、その後の敷地分割でできたものですか。
東大小泉教授:上郷ネオポリスが開発されたころの都市計画の考え方は、良好な住環境形成のための敷地面積は250〜300m²が標準で、200m²が最低基準となっており、都市計画の教科書にもそのように書かれていました。そのため、開発当初の大きな宅地の敷地分割によるものと考えられます。
国交省坂田企画専門官:本日は大変勉強になりました。実は、イノベーティブなまちづくりに必要なこと、中心市街地活性化に必要とされること、地域共生社会など福祉のまちづくりに必要なことは、同じ様なことが言われているのではないかと、元厚労省事務次官の村木厚子氏にお話ししたところ、私もそう考えているとのことでした。本日のお話を通じて、うまくいくマネジメントの組織・体制とは、ジャンルにかかわらず共通するところがあるのではないかと改めて思う一方、ジャンルによる違いが見えてくると更におもしろいと考えました。上郷ネオポリスでは郊外住宅地の新しい形を目指すために、ステークホルダーの1つであるディベロッパーが自ら団地に関わって好循環が生まれたとのことですが、このようにリスクをとって参画するところが現れなければ郊外住宅地を刷新することは難しいと考えられます。パブリックセクターは税金を原資にすることから、平等政策を打たざるを得ないところがあり、郊外団地が何に困っているかというお話をうかがったとき 、その団地の周辺エリアの困りごととの比較で、どの程度手を出せるかということが決まってしまいます。郊外団地の全てが同じように良くなるということは無いでしょうし、新しい郊外づくりのためには、どこがリスクをとるかということと、住民が頑張るということがあって、それぞれの団地におけるベストプラクティスを、地域資源を活用しながらつくりだしていくことになるかと考えられます。石川県の佛子園様では、「ごちゃまぜ」のコンセプトで、空き家を使った分散型で、サ高住を始めとする様々なものをつくっておられ、巡回カートも走り、成功事例を1つ1つ積み重ねてまちの再生を進めておられます。本日のお話で、上郷ネオポリスのようにリスクをとって取り組む人がいて、成功事例を積み重ねていけば、多世代が活躍できるまちの再生が実現すると感じました。
東洋大学水村教授:本日は貴重なお話を伺うことができました。感想を3点申し上げたいと思います。まず1点目は、小泉先生のお話された日本人のワークライフバランスに関することです。私は北欧の団地再生や住宅計画を研究しておりますが、ヨーロッパにおいても移民の問題があり、団地再生がテーマになっています。また日本と同じ時代に建てられた住宅ストックの老朽化への様々な取組みが行われています。さらにリビングラボがうまく機能して、住民と企業と行政が一体になって活動が行われていますが、実はその背景には時間のゆとりがあります。夕方4時には皆さん仕事を終えて帰宅しますし、スウェーデンでは夏休みが4週間近くあります。ゆとりがあるので、自分たちのまちの再生に仕事としても個人としても取り組んでおられます。北欧諸国は労働時間が短いですが、国際競争力は常にトップ3です。日本社会も働き方を考え直し、北欧諸国のやり方を社会に取り込む必要があるのではと考えています。2点目は空き家に関することです。前に国交省による、空き家を高齢者や一人親世帯のシェアハウスにするための居住水準や補助金検討に関わったことがあり、その時には非常に有効な施策と考えましたが、実態には機能していません。その理由の1つとして、70代80代の方々が、有料老人ホームに入所しても、自宅を精神的な拠りどころにしており、なかなか処分しようとしないということがあります。子どもが相続しても住まないことは分かっていて、固定資産税を払い続けていても、所有者が処分に躊躇している空き家を発掘し、社会の資源としてもう一度還元する方策が必要ですが、中途半端なやり方では還元に至らないと思います。アムステルダムのベルマニーアという団地は、一時期は空き家だらけでコミュニティが崩壊しましたが、非常に安く売りに出し、若い人がDIYで住めるようにしたために、アーティストや移民が入居して活性化され、ブランディングも進んで、オランダの方々も戻るようになりました。変化の時期は思い切ったことを行わないと遊休不動産は活用されないのではないかと思います。その観点から、大和ハウス様が空き家を買い上げて有効に使う取組が進められれば、非常に期待できるのではないかと考えています。最後はSDGsに関することです。SDGsの目的は持続可能な社会ですが、今の学生を見ると自分たちの将来に希望を持てないのはないかと感じられます。人類が未だ経験したことのない超高齢社会を打破するためには、高齢者対策だけではなく、子どもを中心とする取組みが必要ではないかと考えられます。先日、国交省の居住支援検討会に出席しましたが、児童養護施設を出所した子どもの住宅が無い、母子世帯の適切な住宅が無いとのことでした。次の世代を担う子どものための取組みがもっと必要です。スウェーデンの友人にスウェーデンの都市計画のトレンドを訪ねたところ、子どもを中心とした都市計画とのことでした。スウェーデンも高齢化が進んでいるが、子どもが中心という発想に立てば、高齢者に関することも取り込むことができるし、なにより次の世代を大事にすることが必要ということでした。高齢者は大量にいて消費のマジョリティになっていますが、若い人や子どもに焦点をあててまちづくりや住環境づくりを進めて行くことが必要と考えています。


以上