トークセッション

「これからの郊外まちづくりとハウスメーカーの役割」


成熟研委員:大和ハウス様が最初に上郷ネオポリス自治会内の窓口との意見交換を始めた時、会社としてまちづくり参画を進めようという考えがあったのでしょうか。その後のまちづくり協議会や協定締結まで視野に入れて始められたのでしょうか。
大和ハウス瓜坂部長:全く考えていませんでした。ネオポリスは全国に61か所あり、ネオポリスの高齢化は会社としても問題と考えていましたが、地域に入ることでクレームをたくさんいただくことや、持ち出しのリスクがあるのではという懸念もありました。ただ私は病院や介護施設の営業に携わってきましたが、医療・介護の必要な高齢者は500万人くらいで、元気な高齢者は3,000万人くらいおられます。ロイヤルクラブなどでの様々なイベントを通して、元気な高齢者は弱者ではないし、色々なことをやりたい方々の集まりであると考えるようになりましたが、上郷ネオポリスへのアプローチは、不特定多数を対象にしてきた元気な高齢者向けのサービスを1つのまちで進めれば、まちの再生につながるのではないかという考えから始めました。協議会や協定については、最初は考えておらず、まちづくりにはこういう組織・体制が必要ということで始まりました。繰り返しになりますが、住民の力をお借りしなければ何も先に進みません。
成熟研委員:事業利益について、会社からの指示はありますか。
大和ハウス瓜坂部長:たくさんのハード整備や新たなストック事業につながっているわけでは未だないですが、持ち出しもそれほどありません。野七里テラスの建設に投資した程度です。これからの会社は、利益追求は当然としても、SDGsの観点からの存在意義が問われます。海外のアナリストや投資家は、利益の他に環境などSDGsにどのように取り組んでいるかの観点から、会社を評価しなければならない時代になっています。弊社の社長はまちの“再耕”と言っていますが、これはまちの持続性、つくったものの責任、高齢者の活躍、子育てしやすいまちといった、SDGsの考えそのものといえます。直近の利益ではなく、SDGsに取組んでいる会社としてアピールするという方向に会社の考え方が変わってきています。サービス提供の費用について、会社の持ち出しでは持続できません。カートにしても有料では利用する方がおられなくなり、自治会の共益費などとしてカートの費用にあてられないかなどを検討しています。大きく利益があがらなくても、それで情報が入ってはハードの建設につながるという、ロングレンジでの考え方です。目にみえない価値に貢献できるようにビジネスモデルをつくるという考えです。
成熟研委員:政府・市民社会・私企業が協働でまちをつくっていく上で、まず企業が第一歩を踏み出し、住民に寄り添って意見を伺うことから始めることが有効と考えられますか。
東大小泉教授:今までの日本では社会福祉国家として様々な社会サービスは政府が実施する建前になってきましたが、実際には政府単独では無理で、住民との協働ということは昔から行われてきました。ルーツは1960年代から1970年代くらいにあって、まちづくり条例や住民活動の助成制度などがつくられました。つまり政府と市民社会の協力体制の制度はつくられてきました。1990年代からは、再開発などを企業と政府が協力して進める実績が多くあげられ、PFIやPPPといった企業と政府との協力体制の制度がつくられました。今、必要になっているものは政府・市民社会・企業の3者の“共創”で、どこが第一歩といった順序性はあまり考えていません。特に郊外住宅地は住民の力が重要という文脈で考える必要があります。政府の力だけではできないまちづくりを、相互扶助や建築協定などの制度で住民が補ってきましたが、少子高齢化によってうまく回りにくくなった部分があり、大きく変えなくてはならないが住民だけでは変えることの難しい部分に対して、企業が入ってソリューションを共創することが考えられます。居場所のニーズに対して、企業がコンビニ併設という発想を提案したところが、上郷ネオポリスの新しい特長と考えています。大和ハウス様は、社内で求められるビジネス成立と、社会貢献のPR効果、持続可能なまちづくりに関わっていくということの折り合いづくりを探求されていると考えられます。